還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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「父上が、また…!?」
翡月(ひづき)は大声を出し、体を起こした。
「いけません翡月様、まだ体調が宜しくないのですから」
そう咎めて自分を寝かせようとする侍女を制する。
「いいんです、ありがとう」
そして今し方自分に報告してきた弟を見た。
「それは確かなの、月辰(げっしん)」
「はい、姉上。父上はまた戦争を開始しました」
「一体どうして…! これ以上戦争が長引けば、ただただ皆死んでしまうだけなのに…!」
月辰も俯く。
無意味な戦争に駆り出される軍の皆を思うと身が引き裂かれるようだ。
そもそも戦争の原因を作ったのは父である国王・月陰(つきかげ)。彼は周辺諸国との同盟で手出しが禁止されている中立地帯へと勝手に押し入った。
いわばこの戦争は、周辺諸国のロン・コハク王国に対する怒り。非があるのは当然ロン・コハク側だ。
しかし大国、ロン・コハク。諸国連合と一度に相対してもそうそう負けはしない。
長引く戦争。疲弊していく軍力、国力。
民の怒りと嘆きが、国中に木霊する――。
翡月はベッドから下りた。
「姉上、どちらに!?」
「戦場です。今回こそはなんとしてでも、父上に――」
「無茶です! 貴女が無理をしたからと言って喜ぶ者などいない! 戦場に行くのなら私が…!」
翡月は月辰を見つめた。
そしてそっと近づいて微笑む。
「大切な弟を、戦場になんて行かせられません」
「何を…!」
「今日こそは父上を止めます。黙って寝たままなんていられない。父上を止める、それが次期国王である私の務めです」
月辰は翡月の腕を掴んだ。
ぎゅっと力を入れる。
離せない。離せばこの姉は、戦場へと向かってしまう。
体が弱い貴女が、誰よりも優しい貴女が、戦場へ行って無事でいられるわけがない。
「月辰、離して」
「嫌です!」
「月辰――」
その時ゆっくりと翡月の部屋の扉が開いた。
現れたのは長い黒髪に、深い海色の瞳を持つ男。
「誰!?」
侍女が叫ぶと、男は丁寧にお辞儀をした。
「初めまして。興味があって城を探索しています」
「誰ですか?」
落ち着いた声音で問うたのは、月辰。翡月も冷静に男を眺めた。
男はにっこりと笑って答える。
「名はレシル。ただの1人の魔族です」
翡月(ひづき)は大声を出し、体を起こした。
「いけません翡月様、まだ体調が宜しくないのですから」
そう咎めて自分を寝かせようとする侍女を制する。
「いいんです、ありがとう」
そして今し方自分に報告してきた弟を見た。
「それは確かなの、月辰(げっしん)」
「はい、姉上。父上はまた戦争を開始しました」
「一体どうして…! これ以上戦争が長引けば、ただただ皆死んでしまうだけなのに…!」
月辰も俯く。
無意味な戦争に駆り出される軍の皆を思うと身が引き裂かれるようだ。
そもそも戦争の原因を作ったのは父である国王・月陰(つきかげ)。彼は周辺諸国との同盟で手出しが禁止されている中立地帯へと勝手に押し入った。
いわばこの戦争は、周辺諸国のロン・コハク王国に対する怒り。非があるのは当然ロン・コハク側だ。
しかし大国、ロン・コハク。諸国連合と一度に相対してもそうそう負けはしない。
長引く戦争。疲弊していく軍力、国力。
民の怒りと嘆きが、国中に木霊する――。
翡月はベッドから下りた。
「姉上、どちらに!?」
「戦場です。今回こそはなんとしてでも、父上に――」
「無茶です! 貴女が無理をしたからと言って喜ぶ者などいない! 戦場に行くのなら私が…!」
翡月は月辰を見つめた。
そしてそっと近づいて微笑む。
「大切な弟を、戦場になんて行かせられません」
「何を…!」
「今日こそは父上を止めます。黙って寝たままなんていられない。父上を止める、それが次期国王である私の務めです」
月辰は翡月の腕を掴んだ。
ぎゅっと力を入れる。
離せない。離せばこの姉は、戦場へと向かってしまう。
体が弱い貴女が、誰よりも優しい貴女が、戦場へ行って無事でいられるわけがない。
「月辰、離して」
「嫌です!」
「月辰――」
その時ゆっくりと翡月の部屋の扉が開いた。
現れたのは長い黒髪に、深い海色の瞳を持つ男。
「誰!?」
侍女が叫ぶと、男は丁寧にお辞儀をした。
「初めまして。興味があって城を探索しています」
「誰ですか?」
落ち着いた声音で問うたのは、月辰。翡月も冷静に男を眺めた。
男はにっこりと笑って答える。
「名はレシル。ただの1人の魔族です」
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――――レシル。
お前は何も知らない、ただの赤ん坊。
殺戮が本能。
それが全てだ。
ああ、そうだ。
私の本能は殺戮。
だからこその魔王。
魔族の王、魔界の王。
だけど信じてもいいじゃないか。
「ここ…どこだ?」
レシルは天界の空を適当に浮遊する。
特に目的もない“逃げ場”なので行き場がない。
適当に遊んで帰るとラウに言ったものの、遊べるほど天界のことを知っているわけではなかった。知っていることといえば“人間”が住んでいるということだけ。
100年も生きられない、自分たち“魔族”と似た形をした生き物。
「あれは…戦、か?」
ふとレシルは地上を見下ろした。荒野で砂ぼこりが舞っている。
戦争だ。歩兵と騎馬隊とがせめぎ合う、国同士の争い。両者が掲げている旗は違う。あれは国旗だろうか。
「国と国の戦争…。さて、どちらが勝つかな」
呑気にレシルは上空でその戦争を見守った。
人間同士の争いは初めて見る。帰ったらラウへの土産話としよう。
しかしそう呑気にもしていられない。
突然起こる竜巻、落雷、それらが上空にいるレシルをも巻き込む。
起こしたのは勿論“能力者”たちだ。火、水、風、雷、樹、いずれかの能力を持つ者たち――人間の中でも突出した戦闘能力を誇る。
故に“戦士”という職業に就いては、国に雇われ戦争に向かう。
レシルも話には聞いていたことだ。だけど実際に能力者同士の戦いを見るのは初めてで、難なく巻き込まれるのを避けながらそれを見ていた。
しかし両者共に疲れているように見えるのは気のせいか。
きっとこの戦争、もう随分と前から続いているのだろう。兵たちも疲れている。
「一体これは何のための戦争だ?」
レシルは呟いた。
まるで無駄死にしているように見える。なんだか哀れで仕方がない。
自分も民衆の上に立つ“王”だ。こんな状態の兵たちに戦いを命じる愚かな王の気が知れない。
「それとも、人間と魔族も、そう変わらないということか…?」
兄上。
貴方は私に言った。
『殺戮が本能』
だがそれは私だけのこと?
前王である父を殺した貴方も、そんな貴方を殺した私も。
今ここで、戦争をしている人間たちも。
もしかすると皆――。
お前は何も知らない、ただの赤ん坊。
殺戮が本能。
それが全てだ。
ああ、そうだ。
私の本能は殺戮。
だからこその魔王。
魔族の王、魔界の王。
だけど信じてもいいじゃないか。
「ここ…どこだ?」
レシルは天界の空を適当に浮遊する。
特に目的もない“逃げ場”なので行き場がない。
適当に遊んで帰るとラウに言ったものの、遊べるほど天界のことを知っているわけではなかった。知っていることといえば“人間”が住んでいるということだけ。
100年も生きられない、自分たち“魔族”と似た形をした生き物。
「あれは…戦、か?」
ふとレシルは地上を見下ろした。荒野で砂ぼこりが舞っている。
戦争だ。歩兵と騎馬隊とがせめぎ合う、国同士の争い。両者が掲げている旗は違う。あれは国旗だろうか。
「国と国の戦争…。さて、どちらが勝つかな」
呑気にレシルは上空でその戦争を見守った。
人間同士の争いは初めて見る。帰ったらラウへの土産話としよう。
しかしそう呑気にもしていられない。
突然起こる竜巻、落雷、それらが上空にいるレシルをも巻き込む。
起こしたのは勿論“能力者”たちだ。火、水、風、雷、樹、いずれかの能力を持つ者たち――人間の中でも突出した戦闘能力を誇る。
故に“戦士”という職業に就いては、国に雇われ戦争に向かう。
レシルも話には聞いていたことだ。だけど実際に能力者同士の戦いを見るのは初めてで、難なく巻き込まれるのを避けながらそれを見ていた。
しかし両者共に疲れているように見えるのは気のせいか。
きっとこの戦争、もう随分と前から続いているのだろう。兵たちも疲れている。
「一体これは何のための戦争だ?」
レシルは呟いた。
まるで無駄死にしているように見える。なんだか哀れで仕方がない。
自分も民衆の上に立つ“王”だ。こんな状態の兵たちに戦いを命じる愚かな王の気が知れない。
「それとも、人間と魔族も、そう変わらないということか…?」
兄上。
貴方は私に言った。
『殺戮が本能』
だがそれは私だけのこと?
前王である父を殺した貴方も、そんな貴方を殺した私も。
今ここで、戦争をしている人間たちも。
もしかすると皆――。
私は見届け続けよう。
この命が、果てるまで。
「レシル。どこへ行く?」
声をかけられ、レシルは罰が悪そうに振り向いた。
そこには5つ年上の異母兄・ラウが立っていて、鋭い目でこちらを見据えている。
「私は逃げる」
レシルは揚々と答えた。悪気も何もない。
訊かれたことを、正直に。
「何故逃げる」
ラウは声を低くして言った。その迫力には誰も敵わないだろう。
だけど唯一レシルには効果がないようだ。
「王国の重鎮だとかいう奴らが、私に婚約者を見繕ってくるとか?」
「だからどうした」
「ラウ。いくら彼女が君の従妹でも、婚約を受ける気はないよ」
「だから逃げるのか」
ラウはため息を吐き、呟く。
「勝手にしろ」
「さすがラウ! じゃあ、適当に遊んだら帰ってくるよ」
ふっとレシルの姿が消える。
ラウはその見えない姿を追いかけるように空を仰いだ。
「さて……不肖の弟のこの不始末、なんと説明するべきか――」
魔界に住む長命種族、魔族。
その王・レシルはある時魔界から姿を消した。
この時レシルはおよそ50歳。
1000年生きる魔族の、ほんの小さな戯れだった。
この命が、果てるまで。
「レシル。どこへ行く?」
声をかけられ、レシルは罰が悪そうに振り向いた。
そこには5つ年上の異母兄・ラウが立っていて、鋭い目でこちらを見据えている。
「私は逃げる」
レシルは揚々と答えた。悪気も何もない。
訊かれたことを、正直に。
「何故逃げる」
ラウは声を低くして言った。その迫力には誰も敵わないだろう。
だけど唯一レシルには効果がないようだ。
「王国の重鎮だとかいう奴らが、私に婚約者を見繕ってくるとか?」
「だからどうした」
「ラウ。いくら彼女が君の従妹でも、婚約を受ける気はないよ」
「だから逃げるのか」
ラウはため息を吐き、呟く。
「勝手にしろ」
「さすがラウ! じゃあ、適当に遊んだら帰ってくるよ」
ふっとレシルの姿が消える。
ラウはその見えない姿を追いかけるように空を仰いだ。
「さて……不肖の弟のこの不始末、なんと説明するべきか――」
魔界に住む長命種族、魔族。
その王・レシルはある時魔界から姿を消した。
この時レシルはおよそ50歳。
1000年生きる魔族の、ほんの小さな戯れだった。
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