還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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俺には、償いきれない過去がある。
償いの仕方を、必死に手探る。
自分の罪を洗い流す術をひたすら求め続ける。
でもそれを、“あの2人”が望んでいたかどうかなんて、知らない。
考えるまでもない。
望んでいるはずがない。
でも“あの2人”が俺に罪を背負わせた。
消えることのない心の傷(きず)を、背負わせた。
『レイス!』
これは、桜夜の声?
俺はどうしたんだ?
『しっかりしろ、俺が分かるか!? 意識はあるか!?』
頭が働かない。
何故か体の力を抜いても平気だ。
ああそうか、俺は倒れたのか。
「誰でもいい! 誰か先生を! 早く!」
「呼んでくる!」
小島莉華の声もする。
教室が騒がしい。ざわついた声が癇に障る。
うるさい。
俺に何も聞かせるな。
『レイス、楽な姿勢になれよ。すぐに先生が来るから!』
不思議だ。
桜夜の声はすっきりと頭に入り込む。
『桜夜』
レイスの目が開いた。
俺はほっとしてレイスの体を支えてやる。
『その体勢辛くないか? お前自分が倒れてるって分かってるか?』
訊くとレイスは頷いた。
『桜夜……』
力のない声。このまま消えてしまいそうな、そんな声。
『なんだよ。あまり喋るな。大人しくしてろ』
俺がそう言うと、レイスはうっすらと笑みを浮かべて言った。
『ごめんな』
その瞬間保健医と莉華が共に教室に入って来て、男の教師たちがレイスを運んで行った。
“ごめんな”って、何が?
あいつは何に対してそう言ったんだ?
「大丈夫よ」
莉華が俺の肩を軽く叩いた。
「このクラスは自習だ!」
先生がドアから叫ぶと、皆とりあえず席に着く。
「そんな暗い顔しないの」
莉華が俺を励ますが、俺の頭は混乱していた。レイスが突然倒れたことにも、レイスの意味深な言葉にも。
「レイスは、どうして俺に“ごめんな”なんて言ったんだろう」
「心配かけたからじゃないの? あまり深く考えなくてもいいと思うよ」
「そう…だよな」
「きっとそうだよ」
莉華は笑った。
思ったよりも、ずっと早くにやって来た。
『これが俺の限界なのか…?』
病院に運ばれ、病室のベッドの上でレイスは拳を握りしめた。
『力が、出ない』
とうとう終わってしまうのだろうか?
早すぎやしないか。
『畜生……!』
神は俺に、償う間さえも与えてくれないのか。
そんなの残酷の他に、何物でもない。
償いの仕方を、必死に手探る。
自分の罪を洗い流す術をひたすら求め続ける。
でもそれを、“あの2人”が望んでいたかどうかなんて、知らない。
考えるまでもない。
望んでいるはずがない。
でも“あの2人”が俺に罪を背負わせた。
消えることのない心の傷(きず)を、背負わせた。
『レイス!』
これは、桜夜の声?
俺はどうしたんだ?
『しっかりしろ、俺が分かるか!? 意識はあるか!?』
頭が働かない。
何故か体の力を抜いても平気だ。
ああそうか、俺は倒れたのか。
「誰でもいい! 誰か先生を! 早く!」
「呼んでくる!」
小島莉華の声もする。
教室が騒がしい。ざわついた声が癇に障る。
うるさい。
俺に何も聞かせるな。
『レイス、楽な姿勢になれよ。すぐに先生が来るから!』
不思議だ。
桜夜の声はすっきりと頭に入り込む。
『桜夜』
レイスの目が開いた。
俺はほっとしてレイスの体を支えてやる。
『その体勢辛くないか? お前自分が倒れてるって分かってるか?』
訊くとレイスは頷いた。
『桜夜……』
力のない声。このまま消えてしまいそうな、そんな声。
『なんだよ。あまり喋るな。大人しくしてろ』
俺がそう言うと、レイスはうっすらと笑みを浮かべて言った。
『ごめんな』
その瞬間保健医と莉華が共に教室に入って来て、男の教師たちがレイスを運んで行った。
“ごめんな”って、何が?
あいつは何に対してそう言ったんだ?
「大丈夫よ」
莉華が俺の肩を軽く叩いた。
「このクラスは自習だ!」
先生がドアから叫ぶと、皆とりあえず席に着く。
「そんな暗い顔しないの」
莉華が俺を励ますが、俺の頭は混乱していた。レイスが突然倒れたことにも、レイスの意味深な言葉にも。
「レイスは、どうして俺に“ごめんな”なんて言ったんだろう」
「心配かけたからじゃないの? あまり深く考えなくてもいいと思うよ」
「そう…だよな」
「きっとそうだよ」
莉華は笑った。
思ったよりも、ずっと早くにやって来た。
『これが俺の限界なのか…?』
病院に運ばれ、病室のベッドの上でレイスは拳を握りしめた。
『力が、出ない』
とうとう終わってしまうのだろうか?
早すぎやしないか。
『畜生……!』
神は俺に、償う間さえも与えてくれないのか。
そんなの残酷の他に、何物でもない。
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それは突然やって来た。
人々の避難など追いつかない程に。
轟音が、響く。
米軍基地の飛行場。
最後の一機。
轟音の中でもはっきりと聞こえるのは、赤ん坊の泣き声。
「待って下さい! 僕は乗れません、貴方たちが乗って下さい!」
彼らはまっすぐに俺を見つめる。
「乗りなさい」
“でも”という言葉は、あの2人は聞いてくれなかった――。
『見つからないな。この辺りのはずなのに』
レイスは地図を畳んだ。
『今日はもうこのまま帰るとしよう。学校に行かなくてはならないし、桜夜も心配する。それにまだ、』
まだ、時間はあるはずだから。
俺とレイスが過去に来てはやくも1カ月が経ってしまった。生活にも学校にも大分慣れた。友だちもたくさんできたし、日本語も覚え始めた。
「桜夜、昨日の復習ね。まずは自分の名前から」
字を夕華の母、莉華が熱心に教えてくれる。
俺は漢字で“朱月桜夜”と書いた。
「ばっちりね」
嬉しそうに微笑む彼女を見て、俺もつられて笑顔になった。
「レイス先生も貴方も覚えが良すぎてつまらない」
そう、レイスも日本語を習い、書くとまではいかないが日本語をペラペラと話すようになっていた。
わずか1カ月で、だ。その凄さには脱帽する。
そういえば朝、またレイスはいなかった。
「どこに行ってるんだろう……」
「誰が?」
「あ……いや、なんでもない。もうすぐ英語の時間だな」
「そうね。今度は私が教えてもらう番かな」
程なくしてチャイムが鳴り、レイスが教室に入って来る。
『始めよう』
レイスを今日初めて見て、今、何か違和感を覚えた。
いつもと同じような笑顔で、でも、そうじゃない。
「出席を取るぞ」
いつもと変わらない口ぶりで、でも、どこか違う。
「桜夜、いるなら返事しろ。欠席にするぞ」
「――え…? あ、はい……」
「おいおい大丈夫か? しっかりしろよ」
「分かってるよ、レイス――」
俺がじっとレイスを見ると、レイスは不思議そうに首を傾げた。
「なんだ?」
「大丈夫か?」
レイスは息を呑んで俺を見つめ返す。
「“大丈夫”って、何が?」
「大丈夫ならそれでいい」
クラスの奴らが不思議そうに俺たちのやり取りを聞いていた。
「変な奴だな。さぁ、授業に入ろうか」
レイスは何事も無かったように教科書を開く。ふと窓の外に目をやった。
『飛行機………音がする――』
学校の近くを1機の飛行機が飛んでいる。
レイスはそれを見つめしばらく動かなかった。
飛行機の中に何を見ているのか。
――レイスはひたすら動かなかった。
人々の避難など追いつかない程に。
轟音が、響く。
米軍基地の飛行場。
最後の一機。
轟音の中でもはっきりと聞こえるのは、赤ん坊の泣き声。
「待って下さい! 僕は乗れません、貴方たちが乗って下さい!」
彼らはまっすぐに俺を見つめる。
「乗りなさい」
“でも”という言葉は、あの2人は聞いてくれなかった――。
『見つからないな。この辺りのはずなのに』
レイスは地図を畳んだ。
『今日はもうこのまま帰るとしよう。学校に行かなくてはならないし、桜夜も心配する。それにまだ、』
まだ、時間はあるはずだから。
俺とレイスが過去に来てはやくも1カ月が経ってしまった。生活にも学校にも大分慣れた。友だちもたくさんできたし、日本語も覚え始めた。
「桜夜、昨日の復習ね。まずは自分の名前から」
字を夕華の母、莉華が熱心に教えてくれる。
俺は漢字で“朱月桜夜”と書いた。
「ばっちりね」
嬉しそうに微笑む彼女を見て、俺もつられて笑顔になった。
「レイス先生も貴方も覚えが良すぎてつまらない」
そう、レイスも日本語を習い、書くとまではいかないが日本語をペラペラと話すようになっていた。
わずか1カ月で、だ。その凄さには脱帽する。
そういえば朝、またレイスはいなかった。
「どこに行ってるんだろう……」
「誰が?」
「あ……いや、なんでもない。もうすぐ英語の時間だな」
「そうね。今度は私が教えてもらう番かな」
程なくしてチャイムが鳴り、レイスが教室に入って来る。
『始めよう』
レイスを今日初めて見て、今、何か違和感を覚えた。
いつもと同じような笑顔で、でも、そうじゃない。
「出席を取るぞ」
いつもと変わらない口ぶりで、でも、どこか違う。
「桜夜、いるなら返事しろ。欠席にするぞ」
「――え…? あ、はい……」
「おいおい大丈夫か? しっかりしろよ」
「分かってるよ、レイス――」
俺がじっとレイスを見ると、レイスは不思議そうに首を傾げた。
「なんだ?」
「大丈夫か?」
レイスは息を呑んで俺を見つめ返す。
「“大丈夫”って、何が?」
「大丈夫ならそれでいい」
クラスの奴らが不思議そうに俺たちのやり取りを聞いていた。
「変な奴だな。さぁ、授業に入ろうか」
レイスは何事も無かったように教科書を開く。ふと窓の外に目をやった。
『飛行機………音がする――』
学校の近くを1機の飛行機が飛んでいる。
レイスはそれを見つめしばらく動かなかった。
飛行機の中に何を見ているのか。
――レイスはひたすら動かなかった。
「レイス=ブロッドウェア=ロイド。新しい英語の先生だ」
英語の授業で、英語教師がレイスを紹介した。
『よろしく。あまり日本語は話せないから、うまくコミュニケーションがとれるか分からないが仲良くしよう』
レイスが言った後、ご丁寧に先生が皆に日本語に訳していた。
――失態だ。
恥ずかしい。人前で泣いてしまったことがすごく恥ずかしい。
でも仕方がないじゃないか。ここはあんなにも夕華が来たがっていたところなのに、彼女がいないという事実が悲しい。
『桜夜。朱月桜夜!』
俺は一瞬で我に返った。
『話を聞いていたか?』
俺は答える。
『いや。話って何』
『俺の自己紹介さ』
『興味無い』
「へー。本当にイギリス育ちって感じだなぁ」
男子生徒が1人、呟いた。
先生が苦笑しながら割って入って来る。
『まあまあ。レイス先生、朱月桜夜とは確か一緒に住んでいるんでしたよね』
『ええ。私は彼の保護者です』
『保護者? 違う、レイスはただの同居人だ!
『なんだよ桜夜、俺は立派にお前の面倒を見ているぞ。他にも――』
レイスは言葉を切った。おそらくこれ以上喋るとぼろを出しかねないと思ったのだろう。
『すみません、先生。喧嘩は家でやります』
『それがいいですね』
先生はにっこりと微笑んだ。
「では皆、レイス先生に質問は?」
1人の女子生徒が手を挙げた。
「レイス先生、彼女いますか?」
先生が訳してレイスに伝える。
『ああ――それは……』
レイスの表情がわずかに曇る。
『つい最近、別れたよ』
日本語に訳さなくても、教室中の誰もがいけないことを聞いたのではと後悔した。
「ねえ朱月くん。お願いがあるの」
放課後の教室で先程の女生徒が俺のところにやって来た。
「レイス先生に、謝っておいて欲しいの」
謝る? ああ、さっきのことか。
「いいけど。別にいいんじゃない? レイスは気にしてないと思うよ。だからお前も気にするなよ」
「そう……かな。ありがとう、じゃあね」
彼女は元気に帰って行った。
「傷つけたら、謝る――か」
俺は今日1日、小島莉華をきちんと見られなかった。目があえばそらしたし、話しかけられても顔を見ようとはしなかった。
傷つけた。きっと、傷つけた。
ため息をつきながら鞄を持って教室を出る。1人で静かに階段を下りて下駄箱に着いた。
俺は思わず息を呑む。そこには小島莉華がいた。
「朱月くん、今帰り? 私は友だちを待ってるの」
俺は俯いたまま頷いた。
「ねえ、どうしてこっちを見てくれないの?」
「…………」
「こっちを向いてよ。私のことが嫌いなの? 私、何か嫌われるようなことしたかな」
――好きだったに決まってる。“莉華さん”のこと。母親のいない俺にとって、“お母さん”そのものだった。
だから見るのが辛いんだ。夕華とそっくりだから余計に。
「さっき美紀子に会ったの。覚えてる? レイス先生に質問した子なんだけど。美紀子が言ってたの、“朱月くん優しいね”って。ねえ、私にだけそんなに辛くあたるのには何か理由があるんでしょう? 教えてよ。私嫌われたままなんて嫌…!」
違う。違うんだ。
「君……が」
どうしよう。また涙が出てきそうだ。
「とても大切だった、人に、すごく似てて。でもその人には、二度と、会えなくて」
「朱月くん?」
「だからすごく、君を見ると、辛いんだ」
辛くて辛くてたまらない。涙があふれて止まらない程に。
「ごめんね」
彼女はハンカチを俺に差し出した。
「でもそんなの悲しいよ。私は朱月くんと仲良くしたいのに。私をその人だと思っていいよ。だからきちんと、私を見て」
その言葉に、俺は思わず彼女を抱きしめた。
「夕華――夕華…夕華!」
彼女も俺を抱きしめ返す。
「桜夜」
そして俺の名前を呼んだ。
どうあがいても、今すぐ元に戻るなんて不可能なんだ。
改めてそれを考える。
『何を考えている?』
風呂からあがって来たレイスが俺の目の前に座った。
『抵抗することの無意味さをだよ』
『無意味? そうかな』
『?』
レイスは煙草を吸い始めた。俺は自分の傍にあった灰皿をレイスに渡す。
『レイスはそう思わないってこと?』
『勿論。俺たち2人は償いが可能だろう。未来を変えることだってできる。せっかく“過去”に来たんだから』
『レイスは償いたい過去があるんだ。恋人を捨ててまで、ここに来る程』
『違うよ。言っただろ、へまをやらかしたって。過去に来たのはたまたまだ』
嘘を吐いても分かるよ。償うために毎朝早くから出掛けているんじゃないのか?
でも俺はそれ以上その話題に触れることはなかった。
きっとこれは、誤魔化すほどに触れられてほしくない、レイスの事情というものなんだろうから。
英語の授業で、英語教師がレイスを紹介した。
『よろしく。あまり日本語は話せないから、うまくコミュニケーションがとれるか分からないが仲良くしよう』
レイスが言った後、ご丁寧に先生が皆に日本語に訳していた。
――失態だ。
恥ずかしい。人前で泣いてしまったことがすごく恥ずかしい。
でも仕方がないじゃないか。ここはあんなにも夕華が来たがっていたところなのに、彼女がいないという事実が悲しい。
『桜夜。朱月桜夜!』
俺は一瞬で我に返った。
『話を聞いていたか?』
俺は答える。
『いや。話って何』
『俺の自己紹介さ』
『興味無い』
「へー。本当にイギリス育ちって感じだなぁ」
男子生徒が1人、呟いた。
先生が苦笑しながら割って入って来る。
『まあまあ。レイス先生、朱月桜夜とは確か一緒に住んでいるんでしたよね』
『ええ。私は彼の保護者です』
『保護者? 違う、レイスはただの同居人だ!
『なんだよ桜夜、俺は立派にお前の面倒を見ているぞ。他にも――』
レイスは言葉を切った。おそらくこれ以上喋るとぼろを出しかねないと思ったのだろう。
『すみません、先生。喧嘩は家でやります』
『それがいいですね』
先生はにっこりと微笑んだ。
「では皆、レイス先生に質問は?」
1人の女子生徒が手を挙げた。
「レイス先生、彼女いますか?」
先生が訳してレイスに伝える。
『ああ――それは……』
レイスの表情がわずかに曇る。
『つい最近、別れたよ』
日本語に訳さなくても、教室中の誰もがいけないことを聞いたのではと後悔した。
「ねえ朱月くん。お願いがあるの」
放課後の教室で先程の女生徒が俺のところにやって来た。
「レイス先生に、謝っておいて欲しいの」
謝る? ああ、さっきのことか。
「いいけど。別にいいんじゃない? レイスは気にしてないと思うよ。だからお前も気にするなよ」
「そう……かな。ありがとう、じゃあね」
彼女は元気に帰って行った。
「傷つけたら、謝る――か」
俺は今日1日、小島莉華をきちんと見られなかった。目があえばそらしたし、話しかけられても顔を見ようとはしなかった。
傷つけた。きっと、傷つけた。
ため息をつきながら鞄を持って教室を出る。1人で静かに階段を下りて下駄箱に着いた。
俺は思わず息を呑む。そこには小島莉華がいた。
「朱月くん、今帰り? 私は友だちを待ってるの」
俺は俯いたまま頷いた。
「ねえ、どうしてこっちを見てくれないの?」
「…………」
「こっちを向いてよ。私のことが嫌いなの? 私、何か嫌われるようなことしたかな」
――好きだったに決まってる。“莉華さん”のこと。母親のいない俺にとって、“お母さん”そのものだった。
だから見るのが辛いんだ。夕華とそっくりだから余計に。
「さっき美紀子に会ったの。覚えてる? レイス先生に質問した子なんだけど。美紀子が言ってたの、“朱月くん優しいね”って。ねえ、私にだけそんなに辛くあたるのには何か理由があるんでしょう? 教えてよ。私嫌われたままなんて嫌…!」
違う。違うんだ。
「君……が」
どうしよう。また涙が出てきそうだ。
「とても大切だった、人に、すごく似てて。でもその人には、二度と、会えなくて」
「朱月くん?」
「だからすごく、君を見ると、辛いんだ」
辛くて辛くてたまらない。涙があふれて止まらない程に。
「ごめんね」
彼女はハンカチを俺に差し出した。
「でもそんなの悲しいよ。私は朱月くんと仲良くしたいのに。私をその人だと思っていいよ。だからきちんと、私を見て」
その言葉に、俺は思わず彼女を抱きしめた。
「夕華――夕華…夕華!」
彼女も俺を抱きしめ返す。
「桜夜」
そして俺の名前を呼んだ。
どうあがいても、今すぐ元に戻るなんて不可能なんだ。
改めてそれを考える。
『何を考えている?』
風呂からあがって来たレイスが俺の目の前に座った。
『抵抗することの無意味さをだよ』
『無意味? そうかな』
『?』
レイスは煙草を吸い始めた。俺は自分の傍にあった灰皿をレイスに渡す。
『レイスはそう思わないってこと?』
『勿論。俺たち2人は償いが可能だろう。未来を変えることだってできる。せっかく“過去”に来たんだから』
『レイスは償いたい過去があるんだ。恋人を捨ててまで、ここに来る程』
『違うよ。言っただろ、へまをやらかしたって。過去に来たのはたまたまだ』
嘘を吐いても分かるよ。償うために毎朝早くから出掛けているんじゃないのか?
でも俺はそれ以上その話題に触れることはなかった。
きっとこれは、誤魔化すほどに触れられてほしくない、レイスの事情というものなんだろうから。
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