還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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朱月桜夜様
もうすでに分かっているだろうが、俺の命は残り少ない。いつ死ぬかも分からない身なので、これをお前に残しておく。
あの日本が終わった日。本当はその日、俺は死ぬはずだった。朱月夫妻……お前の両親に助けられなければ。
結果俺は生き延びてお前の両親は死んだ。自分たちの子、桜夜を俺に託して。
それが俺の罪だ。
朱月夫妻は2人とも有能な科学者であり、イギリスや他の国々でも知られ重宝されていた。学会の最高峰を行く方々だったのだ。だから大国が揃って日本に攻め入る時、朱月夫妻はその前に日本から出る権利が与えられた。
同時にたまたま日本に滞在していた日本人以外の者たちにも。俺もその1人だった。
しかし日本が予想以上に行動を開始してしまったため、諸国が日本に攻め入る時期も急激に早まってしまった。避難の追い付かないままに総攻撃が始まったのだ。
避難のために用意された飛行機は数が間に合わず、制限を超えて乗り込んでも足りなかった。
俺が乗ろうとした飛行機は最後の1機で、乗り込んでいなかったのは俺と朱月夫妻。
ぎゅうぎゅう詰めで危険な飛行機に、頑張ってもあと2人だけ。
ご両親の採った道が、お前なら分かるだろう?
彼らはお前を俺に託し、自分たちは乗らない道を選んだ。
悔やんでも悔やみきれないことだ。
あの2人は笑っていたんだ。それがすごく切ない思いを駆り立てた。
そして“罪”として俺の心に残った。
俺が過去にやって来たのは朱月夫妻を探すためだ。そして忠告するつもりだった、俺なんかに生きる機会を与えるな、と。生きて自分たちの子どもにするべきことがたくさんあるだろう、と。
お前は3歳頃までイギリスで育ち、それから小島莉華に育てられた。
母親を恋しいと思ったことはないか?
2007年8月28日、米軍基地へ行け。すまないな、場所はよく覚えていないが、ここからそう遠くなかったように思う。
そして止めるんだ。朱月夫妻を飛行機に乗せ、俺が乗るのを止めるんだ。
そうすればきっとお前は母親の温もりを手に入れる。苦しむ思いをしないで済むだろう。仲間を殺すなんてことも無くなる。未来を変えられるんだ。
これは俺のためでもある。
俺を解放してくれ。
俺の最期の願いだ。
健闘を祈る。
レイス・B・ロイド
「“終わる”ってつまり、“滅びる”ってことか……?」
萩野は信じられないという目で俺を見た。
「そういうことだ」
莉華がその場に力なく座りこむ。
俺は2人に何もかも説明した。俺とレイスは未来から来た人間で、俺は4人の仲間を殺して罰として過去に送られたこと。レイスが俺の両親を探し“死ぬために”やって来たこと。そして――日本がもうすぐ“終わる”こと。
「俺たちは死ぬのか?」
萩野はまっすぐに俺を見る。
嘘を吐いてはいけない――直感的にそう思った。
「萩野はおそらく、死ぬ。外国にいたらよく分からないが、少なくとも日本にある33人の集落の中にはいなかった。けれど莉華は」
「私?」
「生き残る。そして子どもを1人産む。莉華によく似た女の子だよ。俺は……莉華に育てられた」
「私が桜夜を育てた……?」
突然萩野が押し殺したように笑い始めた。
「そうか、俺は死ぬのか」
「薫!」
莉華が駆け寄って萩野の背に縋りつく。
「でも莉華と俺たちの子どもは生き残る。それは事実なんだろ?」
俺が静かに頷くと、萩野は優しく莉華に微笑みかけた。
「ごめんな、莉華。結婚の約束をしていたのに、駄目みたいだ」
「薫、嫌だよ、死なないでっ」
「そうだよ萩野! 諦めるな! “未来”は変えられるかもしれない、お前が死なない道だって……!」
「そうかな。あるのかな、そんな未来」
分からない。
自信を持っては答えられない。
でも死ぬはずだった人間を生かすこと。
それがレイスの願いなのだから、否定はしたくない。
「ああ、きっと。今日は何日だ?」
「8月26日」
萩野と莉華が手を繋ぎ、声をそろえて答えてくれた。
――あと2日。
もうすでに分かっているだろうが、俺の命は残り少ない。いつ死ぬかも分からない身なので、これをお前に残しておく。
あの日本が終わった日。本当はその日、俺は死ぬはずだった。朱月夫妻……お前の両親に助けられなければ。
結果俺は生き延びてお前の両親は死んだ。自分たちの子、桜夜を俺に託して。
それが俺の罪だ。
朱月夫妻は2人とも有能な科学者であり、イギリスや他の国々でも知られ重宝されていた。学会の最高峰を行く方々だったのだ。だから大国が揃って日本に攻め入る時、朱月夫妻はその前に日本から出る権利が与えられた。
同時にたまたま日本に滞在していた日本人以外の者たちにも。俺もその1人だった。
しかし日本が予想以上に行動を開始してしまったため、諸国が日本に攻め入る時期も急激に早まってしまった。避難の追い付かないままに総攻撃が始まったのだ。
避難のために用意された飛行機は数が間に合わず、制限を超えて乗り込んでも足りなかった。
俺が乗ろうとした飛行機は最後の1機で、乗り込んでいなかったのは俺と朱月夫妻。
ぎゅうぎゅう詰めで危険な飛行機に、頑張ってもあと2人だけ。
ご両親の採った道が、お前なら分かるだろう?
彼らはお前を俺に託し、自分たちは乗らない道を選んだ。
悔やんでも悔やみきれないことだ。
あの2人は笑っていたんだ。それがすごく切ない思いを駆り立てた。
そして“罪”として俺の心に残った。
俺が過去にやって来たのは朱月夫妻を探すためだ。そして忠告するつもりだった、俺なんかに生きる機会を与えるな、と。生きて自分たちの子どもにするべきことがたくさんあるだろう、と。
お前は3歳頃までイギリスで育ち、それから小島莉華に育てられた。
母親を恋しいと思ったことはないか?
2007年8月28日、米軍基地へ行け。すまないな、場所はよく覚えていないが、ここからそう遠くなかったように思う。
そして止めるんだ。朱月夫妻を飛行機に乗せ、俺が乗るのを止めるんだ。
そうすればきっとお前は母親の温もりを手に入れる。苦しむ思いをしないで済むだろう。仲間を殺すなんてことも無くなる。未来を変えられるんだ。
これは俺のためでもある。
俺を解放してくれ。
俺の最期の願いだ。
健闘を祈る。
レイス・B・ロイド
「“終わる”ってつまり、“滅びる”ってことか……?」
萩野は信じられないという目で俺を見た。
「そういうことだ」
莉華がその場に力なく座りこむ。
俺は2人に何もかも説明した。俺とレイスは未来から来た人間で、俺は4人の仲間を殺して罰として過去に送られたこと。レイスが俺の両親を探し“死ぬために”やって来たこと。そして――日本がもうすぐ“終わる”こと。
「俺たちは死ぬのか?」
萩野はまっすぐに俺を見る。
嘘を吐いてはいけない――直感的にそう思った。
「萩野はおそらく、死ぬ。外国にいたらよく分からないが、少なくとも日本にある33人の集落の中にはいなかった。けれど莉華は」
「私?」
「生き残る。そして子どもを1人産む。莉華によく似た女の子だよ。俺は……莉華に育てられた」
「私が桜夜を育てた……?」
突然萩野が押し殺したように笑い始めた。
「そうか、俺は死ぬのか」
「薫!」
莉華が駆け寄って萩野の背に縋りつく。
「でも莉華と俺たちの子どもは生き残る。それは事実なんだろ?」
俺が静かに頷くと、萩野は優しく莉華に微笑みかけた。
「ごめんな、莉華。結婚の約束をしていたのに、駄目みたいだ」
「薫、嫌だよ、死なないでっ」
「そうだよ萩野! 諦めるな! “未来”は変えられるかもしれない、お前が死なない道だって……!」
「そうかな。あるのかな、そんな未来」
分からない。
自信を持っては答えられない。
でも死ぬはずだった人間を生かすこと。
それがレイスの願いなのだから、否定はしたくない。
「ああ、きっと。今日は何日だ?」
「8月26日」
萩野と莉華が手を繋ぎ、声をそろえて答えてくれた。
――あと2日。
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呆然と立っていると、10歳ほどの少女が俺の目の前で転んだ。
「大丈夫?」
あわてて抱き起こすと、その顔は誰かに似ていた。
咄嗟に呟く。
「澪……?」
「どうしてお兄ちゃん、澪の名前を知ってるの?」
「いや、その――」
俺は俯く。
「ごめんな……」
「澪は何も困ってないよ! どこも痛くないもん!」
まさか未来で俺がお前を殺してしまうなんて、言えるわけがない。
「でも澪ね、お母さんとはぐれちゃったの。どこにいるのかなぁ」
「……じゃあお兄ちゃんが探してやるよ、一緒に」
「本当?」
「ああ、お兄ちゃんともはぐれないように手を繋ごう。お母さんを見つけたらすぐに言えよ」
「うん!」
俺はその小さな手を握った。
小さな小さな、澪の体。
温かい。
――温かい。
あの日俺は澪を殺した。
怒りに身を任せて殺してしまった。
2人で歩いていると大通りでデモが起こっていた。
「他国を侵略してどうする!」
「政府は日本を滅ぼす気か!?」
「憲法を何だと思っている!」
「所詮他の大国に潰されるだけだ!」
この騒がしさの中、2人の女の声が耳の届いた。
「澪!」
「お母さん!」
1人は澪の母親で、澪はあっさりと俺の手を離れて行く。そして母親は澪に何やら聞き、俺に深々と頭を下げた。
でも俺はもうそんなことはどうでもよくなっていた。
「桜夜……!」
澪の母親が自分の子どもを呼ぶのと同時に聞こえた、俺の名前――。
「莉華……?」
声が震えた。
莉華のようで、記憶の中とはどこか違う。
幼さの抜けたしっかりとした女性のようだ。
「5年ぶりね、桜夜」
「5年……?」
莉華は目に涙を浮かべながら俺に近づいてきた。
「そう、貴方はこの制服を着ているのね」
「どういうことだ? 5年? 俺は5年後まで飛ばされたということか?」
「ええ。あの時、レイス先生の病室を出て、桜夜が私たちの前から消えてしまって――もう5年」
そうだ、レイス。
「レイスは今どこに!?」
「5年前から意識が無いの。お医者様が、こうすることで自分の命を保っているんだろうって」
「5年前からずっと……?」
そう言った途端、また見覚えのある男が現れた。
「莉華、探したんだぞ、待ち合わせの場所にはいないしケータイにも出ないし……」
「萩野?」
萩野が俺に気付いて固まる。
「朱月……? 朱月桜夜か!?」
戸惑いながらも歓喜の声を上げた。
「うわぁ……本当に? 5年前と変わってないんだな。その制服も――」
「お前たちは、変わったな」
それ以外何も言えなかった。何を言えばいいのかも分からなかった。
莉華がはっとして自分のバッグの中を漁る。
そして1通の手紙を取り出した。
「これ、5年前にレイス先生から預かった手紙なの。ずっと肌身離さず持っていたんだよ。また会ったときに渡して欲しいって言われて。まさか本当に会えるとは思わなかった……っ」
俺が手紙を受け取るのと同時に、莉華の目から溜まっていた涙が零れる。
萩野は俺の目の前に立ち、しっかりと俺の両肩を掴んだ。
「教えてくれ、今日こそ! 俺たちは何も分かってないんだ、お前とレイス先生は一体――」
「戦争反対っ!!」
突然のデモ集団の大声に俺ははっとした。
「萩野……ここは5年後だと、そう言ったよな」
「ああ、そうだけど?」
なんてことだ。
日本が“終わる年”じゃないか。
「大丈夫?」
あわてて抱き起こすと、その顔は誰かに似ていた。
咄嗟に呟く。
「澪……?」
「どうしてお兄ちゃん、澪の名前を知ってるの?」
「いや、その――」
俺は俯く。
「ごめんな……」
「澪は何も困ってないよ! どこも痛くないもん!」
まさか未来で俺がお前を殺してしまうなんて、言えるわけがない。
「でも澪ね、お母さんとはぐれちゃったの。どこにいるのかなぁ」
「……じゃあお兄ちゃんが探してやるよ、一緒に」
「本当?」
「ああ、お兄ちゃんともはぐれないように手を繋ごう。お母さんを見つけたらすぐに言えよ」
「うん!」
俺はその小さな手を握った。
小さな小さな、澪の体。
温かい。
――温かい。
あの日俺は澪を殺した。
怒りに身を任せて殺してしまった。
2人で歩いていると大通りでデモが起こっていた。
「他国を侵略してどうする!」
「政府は日本を滅ぼす気か!?」
「憲法を何だと思っている!」
「所詮他の大国に潰されるだけだ!」
この騒がしさの中、2人の女の声が耳の届いた。
「澪!」
「お母さん!」
1人は澪の母親で、澪はあっさりと俺の手を離れて行く。そして母親は澪に何やら聞き、俺に深々と頭を下げた。
でも俺はもうそんなことはどうでもよくなっていた。
「桜夜……!」
澪の母親が自分の子どもを呼ぶのと同時に聞こえた、俺の名前――。
「莉華……?」
声が震えた。
莉華のようで、記憶の中とはどこか違う。
幼さの抜けたしっかりとした女性のようだ。
「5年ぶりね、桜夜」
「5年……?」
莉華は目に涙を浮かべながら俺に近づいてきた。
「そう、貴方はこの制服を着ているのね」
「どういうことだ? 5年? 俺は5年後まで飛ばされたということか?」
「ええ。あの時、レイス先生の病室を出て、桜夜が私たちの前から消えてしまって――もう5年」
そうだ、レイス。
「レイスは今どこに!?」
「5年前から意識が無いの。お医者様が、こうすることで自分の命を保っているんだろうって」
「5年前からずっと……?」
そう言った途端、また見覚えのある男が現れた。
「莉華、探したんだぞ、待ち合わせの場所にはいないしケータイにも出ないし……」
「萩野?」
萩野が俺に気付いて固まる。
「朱月……? 朱月桜夜か!?」
戸惑いながらも歓喜の声を上げた。
「うわぁ……本当に? 5年前と変わってないんだな。その制服も――」
「お前たちは、変わったな」
それ以外何も言えなかった。何を言えばいいのかも分からなかった。
莉華がはっとして自分のバッグの中を漁る。
そして1通の手紙を取り出した。
「これ、5年前にレイス先生から預かった手紙なの。ずっと肌身離さず持っていたんだよ。また会ったときに渡して欲しいって言われて。まさか本当に会えるとは思わなかった……っ」
俺が手紙を受け取るのと同時に、莉華の目から溜まっていた涙が零れる。
萩野は俺の目の前に立ち、しっかりと俺の両肩を掴んだ。
「教えてくれ、今日こそ! 俺たちは何も分かってないんだ、お前とレイス先生は一体――」
「戦争反対っ!!」
突然のデモ集団の大声に俺ははっとした。
「萩野……ここは5年後だと、そう言ったよな」
「ああ、そうだけど?」
なんてことだ。
日本が“終わる年”じゃないか。
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