還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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およそ25年前、紅雪。
「斎。お前の罪は許し難し。しかし今のお前に言っても意味は為さない。今のお前を死刑に処すのも忍び難きこと」
紅雪王の厳かな声に、ただただ斎は膝をついて俯いていた。
「他の家臣に罵られようと、これが私がお前にできる精一杯の重い処罰だ。――斎、謹んで受けてくれるな?」
こんなことを問われる者が他にいようか。
斎は紅雪王の寵臣だった。
「謹んで、承ります」
斎がそう言うと紅雪王は一瞬躊躇い、それでもはっきりと口を開く。
「斎を紅雪から永久に追放する!」
紅雪に戻ることを禁じられ、しかし斎はそんなことを気にも留めていなかった。
何より王の人柄が、斎にとっては居心地が悪かった。
「もう、ここに戻ってくることはない」
自分の罪を何もかもこの国に捨て、斎はとりあえず東を目指して歩を進めた。
俺は董狐の馬に乗せてもらい、紅雪軍と共に黄凱へと向かっていた。
詩紀たちに何も言ってこなかったのが気がかりではある。
しかし、この紅雪軍の隊長の言葉をきちんと説明してもらうまではこの軍を離れる気は毛頭なかった。
自分でも信じられない。
今まさに、故郷へと向かっているなんて。
今日久しぶりに会った翏のように、あの国も変わってしまっているのだろうか。
「翏がここにいないのは正解だな……」
どうかあの不幸な少女には、これ以上の不幸は見せたくない。
「翏、とは貴方の妹君のことですよね?」
董狐は前を向いたまま言った。
彼は紅雪の諜報員で、主に東方を担当しているらしい。そのため今回の遠征に参加することを命じられたそうだ。
「ああ、そうだ。本当にお前はどうして情報屋なんて……」
「実益を兼ねて、ですよ。私は滅多に紅雪には帰らないでこの東方の国々にいるんですけど。その間の生活費は自分で稼げと言われているものですから。仕事の中で紅雪に必要のない情報を売って生計を立てていたんです」
「大国も意外とケチなんだな」
「節約と言って下さいよ」
節約されている身の割に明るいな。
「要は金のためか」
「ええ、そうです」
俺は笑う。
「俺の友人も金が好きだな」
「へえ、それはどちら様ですか? 烟梓の者ですよね」
「ああ。ずっと幼い頃から烟梓に住んでいると聞いている」
「名前は愬、と?」
俺は絶句した。
董狐は続けて言う。
「どうやら当たったようですね」
「お前……愬と知り合いか…?」
「お会いしたことはありませんよ。貴方は愬の故国がどこなのか知らないんですか?」
「そんなの……!」
知らない。
知るわけがない。
あの町に住む者の誰の故郷も知らなかった。
今日初めて詩紀と同郷だったと知ったぐらいだ。
「愬は紅雪の生まれなんですよ。と言っても生まれたばかりの頃に、母親と共にあの町へと送られたそうです」
「何故……?」
「それは他国の事情というものですよ。まぁ赤ん坊だったのですから、あの子は何もしてはいません。彼にも、彼の家族にも、何も罪はなかったと聞いています。しかし彼の家族は母親以外処刑されてしまいました」
まるで詩紀のような境遇。
そういえば詩紀から聞いたことがある。
“俺たちは慰め合って生きている”のだと。
「先程愬かもしれないと申し上げたのは、私が愬の立場なら、今頃はきっとお金を生きがいに過ごしているかもしれないと、そう思ったまでです。赤ん坊だったとしても、事情を知る母親がいたはずですからね」
「愬の家族に、一体何があったんだ…?」
董狐は穏やかな顔で答える。
「それをお聞きになりたければ、貴方がこの隊に付いてきた理由を貴方の口から明確に仰っていただかなければなりません。……綸殿、我々の目的が黄凱を救うことだということは既に御存知でしょう?」
「“救う”という名目で何をやるつもりなのか知らないが」
というかそれを聞きたくて、見届けたくて、俺はここまで来たんだ。
「名目も何も文字通り“救う”のですよ。かつて我が国を混乱に陥れたあの人間(・・・・)が、今まさに黄凱にいるんですから」
「………?」
「まさかあの斎が他国で宰相になっているなどと、一体誰が予想しえたことでしょう?」
「斎。お前の罪は許し難し。しかし今のお前に言っても意味は為さない。今のお前を死刑に処すのも忍び難きこと」
紅雪王の厳かな声に、ただただ斎は膝をついて俯いていた。
「他の家臣に罵られようと、これが私がお前にできる精一杯の重い処罰だ。――斎、謹んで受けてくれるな?」
こんなことを問われる者が他にいようか。
斎は紅雪王の寵臣だった。
「謹んで、承ります」
斎がそう言うと紅雪王は一瞬躊躇い、それでもはっきりと口を開く。
「斎を紅雪から永久に追放する!」
紅雪に戻ることを禁じられ、しかし斎はそんなことを気にも留めていなかった。
何より王の人柄が、斎にとっては居心地が悪かった。
「もう、ここに戻ってくることはない」
自分の罪を何もかもこの国に捨て、斎はとりあえず東を目指して歩を進めた。
俺は董狐の馬に乗せてもらい、紅雪軍と共に黄凱へと向かっていた。
詩紀たちに何も言ってこなかったのが気がかりではある。
しかし、この紅雪軍の隊長の言葉をきちんと説明してもらうまではこの軍を離れる気は毛頭なかった。
自分でも信じられない。
今まさに、故郷へと向かっているなんて。
今日久しぶりに会った翏のように、あの国も変わってしまっているのだろうか。
「翏がここにいないのは正解だな……」
どうかあの不幸な少女には、これ以上の不幸は見せたくない。
「翏、とは貴方の妹君のことですよね?」
董狐は前を向いたまま言った。
彼は紅雪の諜報員で、主に東方を担当しているらしい。そのため今回の遠征に参加することを命じられたそうだ。
「ああ、そうだ。本当にお前はどうして情報屋なんて……」
「実益を兼ねて、ですよ。私は滅多に紅雪には帰らないでこの東方の国々にいるんですけど。その間の生活費は自分で稼げと言われているものですから。仕事の中で紅雪に必要のない情報を売って生計を立てていたんです」
「大国も意外とケチなんだな」
「節約と言って下さいよ」
節約されている身の割に明るいな。
「要は金のためか」
「ええ、そうです」
俺は笑う。
「俺の友人も金が好きだな」
「へえ、それはどちら様ですか? 烟梓の者ですよね」
「ああ。ずっと幼い頃から烟梓に住んでいると聞いている」
「名前は愬、と?」
俺は絶句した。
董狐は続けて言う。
「どうやら当たったようですね」
「お前……愬と知り合いか…?」
「お会いしたことはありませんよ。貴方は愬の故国がどこなのか知らないんですか?」
「そんなの……!」
知らない。
知るわけがない。
あの町に住む者の誰の故郷も知らなかった。
今日初めて詩紀と同郷だったと知ったぐらいだ。
「愬は紅雪の生まれなんですよ。と言っても生まれたばかりの頃に、母親と共にあの町へと送られたそうです」
「何故……?」
「それは他国の事情というものですよ。まぁ赤ん坊だったのですから、あの子は何もしてはいません。彼にも、彼の家族にも、何も罪はなかったと聞いています。しかし彼の家族は母親以外処刑されてしまいました」
まるで詩紀のような境遇。
そういえば詩紀から聞いたことがある。
“俺たちは慰め合って生きている”のだと。
「先程愬かもしれないと申し上げたのは、私が愬の立場なら、今頃はきっとお金を生きがいに過ごしているかもしれないと、そう思ったまでです。赤ん坊だったとしても、事情を知る母親がいたはずですからね」
「愬の家族に、一体何があったんだ…?」
董狐は穏やかな顔で答える。
「それをお聞きになりたければ、貴方がこの隊に付いてきた理由を貴方の口から明確に仰っていただかなければなりません。……綸殿、我々の目的が黄凱を救うことだということは既に御存知でしょう?」
「“救う”という名目で何をやるつもりなのか知らないが」
というかそれを聞きたくて、見届けたくて、俺はここまで来たんだ。
「名目も何も文字通り“救う”のですよ。かつて我が国を混乱に陥れたあの人間(・・・・)が、今まさに黄凱にいるんですから」
「………?」
「まさかあの斎が他国で宰相になっているなどと、一体誰が予想しえたことでしょう?」
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