還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
お帰りなさい、風馬さん。
家に帰ると、待っているのはいつもそんな言葉だった。
ずっとずっと幼い頃から、戦士になろうと決意して家を出るまで。
繰り返し繰り返し、言われ続けてきた言葉。
――そのはずなのに。
「風牙……?」
母さん。
「風牙なの……?」
母さん。
なあ、呼んでもいいのか。
口にしてもいいのか。
「母…さん…!」
「風牙!」
風牙はぎゅっと母親を抱きしめた。
「母さん……っ」
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
「母さん!」
一度体を離すと、母・明花は風牙の頬に手を添える。
「なんて大きくなったの…。一体私は、何年貴方を無視して生きて来たの…。何年、取り返しのつかない罪を犯したの」
「母さん……本当に分かってるの?」
「貴方は風牙よ。私と私の愛した風馬さんの子ども。――そうでしょう?」
「嘘だろ……」
家の出入り口でその様子を眺めていた炎馬は呟いた。
その後ろでは鶴真と柳生が泣いている。
更に後方にいた竜庵を、炎馬は振り返った。
「お前が、やったのか」
「――うん。勝手にごめんね」
「明花さんのこと、お前には黙ってたのに……」
それは村の皆で決めたことだった。
家族を、母親を求めて苦しんでいた竜庵にとって、息子のことを忘れ、母親であることを忘れた明花の存在はあまりにも残酷ではないか、と。
竜庵は微笑んだ。
「知っていたよ」
「そうだよな…お前が、知れないわけがない」
「皆が僕のことを思って、黙っていたことも知ってた。特に炎馬。あんたは僕なら彼女の記憶を戻せるかもしれないという可能性があることを分かってて、それでも僕の心を思って、黙ってくれていた」
「竜庵……」
「ありがとう」
炎馬は首を振った。
「お礼を言いたいのはこっちだよ」
「ううん。僕はただ、きっかけを作っただけ。長くて辛い夢を、もう一度彼女に見せてしまっただけ。でもそれを乗り越えて風牙のことを思い出したのは、彼女の力だ。精神を患っておよそ20年――長い年月を費やしたけれど、彼女は、確かに最愛の人の死を乗り越えたんだよ」
「ああ……」
炎馬の目から、ぽろっと涙が零れた。
本当に嬉しいのだ。
誰よりも親友の傍にいて、誰よりも親友の苦しむ姿を見て、誰よりも親友の幸せを願った。
でも自分は何もできなかった。
ただ共に戦士になって、共に歩んで、実質家族のいなかった親友を1人にしないこと……それだけしかできなかった。
「良かった……本当に…!」
本当に、良かった。
その日は村中が湧きあがった。
夜には村を上げての宴会が開かれた。
「竜庵」
鶴真と談笑していた竜庵の元に、風牙がやって来た。
「風牙。もういいの?」
風牙は竜庵の隣に座りながら答える。
「ああ。なんせ20年分の話をするんだ。またこれから通うよ。それに母さんを待っていたのは俺だけじゃないから、皆に母さんの隣を譲ってきた」
「そう」
「鶴真、俺にも酒くれ」
鶴真は笑顔で言われた物を渡す。風牙は受け取ると竜庵と乾杯した。
そして一口飲むとそれを地面に置き、一度立ち上がってすぐに左膝をつく。
右手を自分の左胸に添え、左拳を地に添え視線を落とした。
それは上級の戦士たちがとる、正式な礼の形だった。精一杯の敬意がそこに込められている。
「風牙……!」
「竜庵!」
竜庵があわてて立ち上がろうとしたのを、風牙が制する。
「そのまま聞いてくれ」
真剣な声に、従わざるを得ない。
「俺たちは同格の“仲間”だ。だけど今日だけは、俺はお前に心からの敬意を示したい。……願うことすら、止めていたんだ。夢見ることも、止めていたんだ。それが叶う日が来るなんて、微塵も思っていなかった」
「風牙――」
風牙は顔を上げ、竜庵と視線を合わせた。
「俺に“家族”を取り戻してくれて、ありがとう」
竜庵は首を振る。
「僕はね、この力を苦しめることばかりに使っていたんだ。それが役に立てた。そして風牙や炎馬、皆が喜んでくれた。“仲間”だと言ってもらえた。それが僕もすごく嬉しいんだ」
風牙は微笑み左拳を前に突き出した。
竜庵も自分の拳をそれに合わせる。そしてお互い笑い合った。
宴会は、三日三晩続いたという。
家に帰ると、待っているのはいつもそんな言葉だった。
ずっとずっと幼い頃から、戦士になろうと決意して家を出るまで。
繰り返し繰り返し、言われ続けてきた言葉。
――そのはずなのに。
「風牙……?」
母さん。
「風牙なの……?」
母さん。
なあ、呼んでもいいのか。
口にしてもいいのか。
「母…さん…!」
「風牙!」
風牙はぎゅっと母親を抱きしめた。
「母さん……っ」
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
「母さん!」
一度体を離すと、母・明花は風牙の頬に手を添える。
「なんて大きくなったの…。一体私は、何年貴方を無視して生きて来たの…。何年、取り返しのつかない罪を犯したの」
「母さん……本当に分かってるの?」
「貴方は風牙よ。私と私の愛した風馬さんの子ども。――そうでしょう?」
「嘘だろ……」
家の出入り口でその様子を眺めていた炎馬は呟いた。
その後ろでは鶴真と柳生が泣いている。
更に後方にいた竜庵を、炎馬は振り返った。
「お前が、やったのか」
「――うん。勝手にごめんね」
「明花さんのこと、お前には黙ってたのに……」
それは村の皆で決めたことだった。
家族を、母親を求めて苦しんでいた竜庵にとって、息子のことを忘れ、母親であることを忘れた明花の存在はあまりにも残酷ではないか、と。
竜庵は微笑んだ。
「知っていたよ」
「そうだよな…お前が、知れないわけがない」
「皆が僕のことを思って、黙っていたことも知ってた。特に炎馬。あんたは僕なら彼女の記憶を戻せるかもしれないという可能性があることを分かってて、それでも僕の心を思って、黙ってくれていた」
「竜庵……」
「ありがとう」
炎馬は首を振った。
「お礼を言いたいのはこっちだよ」
「ううん。僕はただ、きっかけを作っただけ。長くて辛い夢を、もう一度彼女に見せてしまっただけ。でもそれを乗り越えて風牙のことを思い出したのは、彼女の力だ。精神を患っておよそ20年――長い年月を費やしたけれど、彼女は、確かに最愛の人の死を乗り越えたんだよ」
「ああ……」
炎馬の目から、ぽろっと涙が零れた。
本当に嬉しいのだ。
誰よりも親友の傍にいて、誰よりも親友の苦しむ姿を見て、誰よりも親友の幸せを願った。
でも自分は何もできなかった。
ただ共に戦士になって、共に歩んで、実質家族のいなかった親友を1人にしないこと……それだけしかできなかった。
「良かった……本当に…!」
本当に、良かった。
その日は村中が湧きあがった。
夜には村を上げての宴会が開かれた。
「竜庵」
鶴真と談笑していた竜庵の元に、風牙がやって来た。
「風牙。もういいの?」
風牙は竜庵の隣に座りながら答える。
「ああ。なんせ20年分の話をするんだ。またこれから通うよ。それに母さんを待っていたのは俺だけじゃないから、皆に母さんの隣を譲ってきた」
「そう」
「鶴真、俺にも酒くれ」
鶴真は笑顔で言われた物を渡す。風牙は受け取ると竜庵と乾杯した。
そして一口飲むとそれを地面に置き、一度立ち上がってすぐに左膝をつく。
右手を自分の左胸に添え、左拳を地に添え視線を落とした。
それは上級の戦士たちがとる、正式な礼の形だった。精一杯の敬意がそこに込められている。
「風牙……!」
「竜庵!」
竜庵があわてて立ち上がろうとしたのを、風牙が制する。
「そのまま聞いてくれ」
真剣な声に、従わざるを得ない。
「俺たちは同格の“仲間”だ。だけど今日だけは、俺はお前に心からの敬意を示したい。……願うことすら、止めていたんだ。夢見ることも、止めていたんだ。それが叶う日が来るなんて、微塵も思っていなかった」
「風牙――」
風牙は顔を上げ、竜庵と視線を合わせた。
「俺に“家族”を取り戻してくれて、ありがとう」
竜庵は首を振る。
「僕はね、この力を苦しめることばかりに使っていたんだ。それが役に立てた。そして風牙や炎馬、皆が喜んでくれた。“仲間”だと言ってもらえた。それが僕もすごく嬉しいんだ」
風牙は微笑み左拳を前に突き出した。
竜庵も自分の拳をそれに合わせる。そしてお互い笑い合った。
宴会は、三日三晩続いたという。
PR
ずっと前に連載していたものの、久しぶりの番外編(未来編)です^^;
キャラが懐かしすぎて覚えてないかもしれません><。
ということで補足です↓
竜庵(りんあん)…本編敵役。現在は水将帝、つまり仲間。
風牙(ふうが)…風将帝。
炎馬(えんま)…火将帝。
鶴真(かくま)…炎馬の双子の妹。竜庵を可愛がっている。
柳生(りゅうき)…炎馬と鶴真の母親。
明花(めいか)…風牙の母親。ただし精神的な理由で風牙を亡き恋人・風馬と混同しているため、風牙が生まれてから一度も彼を自分の子だとは認識していない。
--------------------------------------
初めまして。
そう言って、黒い髪の男の子が訪ねてきた。
私も笑顔で答えたの、「初めまして」って。
一体何しに来たんだろう?
村の外の人なんて久しぶりに見た。
そう思っていると、彼は私にそっと近づいてきた。
初対面だったけれど、恐怖はなかった。
彼がとても優しい笑顔をしていたから。
手を出して。
僕の手を握って。
そして、そっと目を閉じて。
私は言われるがまま、彼の言う通りにした。
目を閉じると、瞼の上から彼の手の温もりを感じた。
何も怖いことはないよ。
静かに息をして、心を落ち着かせて。
――ねえ、何が見える?
「竜庵?」
鶴真は言った。
村人たちと楽しげに会話していた竜庵は、その声が聞こえ彼らに別れを告げる。
そして鶴真に駆け寄った。
「久しぶり!」
「もう! 来てたらすぐに言ってくれたら良かったのに! まっすぐうちに来なかったなんて珍しいね?」
「ちょっと行きたいところがあったから」
ここはセイン王国の端にある寂れた農村だ。しかし現火将帝・炎馬と風将帝・風牙の故郷である。
鶴真は炎馬の双子の妹で、とあるきっかけで知り合った竜庵はたまにこの村を訪れていた。
「行きたいところって?」
鶴真は訊いた。
「うーん…まだ内緒。どうだろう。失敗するかな。もしかすると風牙に怒られるかもしれない。余計なことするなって」
「風牙くんに? 竜庵ってば、風牙くんに何か悪戯でもしたのー?」
くすくすと笑う鶴真に、竜庵も笑いかけた。
「うん、成功すれば僕は嬉しい! 風牙がどう思うかは分からないけどね」
「で、肝心の風牙くんは?」
「もうすぐ来るんじゃないかな? “来て”って書き置きはして来たから」
そこに空から飛獣の鳴き声が聞こえてきた。
2人が見上げると、大きな茶色い飛獣が空を旋回している。
そして飛獣がゆっくりと高度を下げるのを待ちきれないかのように、2人の男が飛び降りてきた。
「お帰りなさい」
鶴真が言った。
飛獣の鳴き声につられて、村人たちも何があっているのかと集まってくる。
「おー炎馬と風牙じゃないか」
「久しぶりだなぁ」
「本当だよ、もっと帰ってくればいいのに」
そんな村人たちの声も気にすることなく、風牙は竜庵に詰め寄った。
「竜庵!」
「ああ、来てくれたんだ。炎馬も一緒なんだね」
「大丈夫なのか!?」
「心配しないで。嘘だから」
「は? 嘘……?」
「ほーらね」
炎馬が笑った。
「そんなことだろうって言っただろ? 竜庵がお前宛に“助けて”なんて書き置きするわけないって」
「なんだよ嘘かよ…! すっげー心配したのに!」
竜庵は照れたように笑う。
「うん…ありがとう」
「で、本題は何なんだよ。俺をこうして村に呼びつけた理由はさ!」
「あーそれは……」
竜庵はちらっとある家を見た。
その家は鶴真の家の隣にあって、とても小さな家だ。
住人は現在1人。――風牙が出て行くまでは、2人で暮らしていた。
「俺の、家……?」
今は風牙の母親が住んでいる。
しかし風牙は滅多にそこには帰らない。
彼女が精神を病んでいて、風牙を自分の子だと認識していないからだ。
風牙の面影に、風牙が生まれる前に死んだ父・風馬を見ているからだ。
それが辛くて辛くて、風牙は逃げ出した。
いつか父としてではなく、1人の人間として、彼女に認識してもらうことを誓って。
でもそれは既に親子であることを諦めていた証拠だった。
父と別の存在だと思ってもらえればいい。
子どもだとは分かってもらえなくても構わない。
「俺の家がどうした…? まさか母さんに何か…!?」
風牙は咄嗟に鶴真を見た。
足の不自由な風牙の母親は、鶴真たち一家が面倒を見ている。
彼女のことは鶴真に訊けば分かるはず。
鶴真は首を振った。
「いつも通りだよ…? 何も心配することはないはずだよっ」
「柳生!」
突然、その家の中から叫び声が聞こえてきた。
緊張が走る。
「柳生!」
その声は、親友である炎馬や鶴真の母親を呼んでいた。
「柳生! 柳生!
――風牙っ!!」
風牙は駆け出した。
柳生も慌てて家から出てくる。
そして普段村にいない3人がいることに驚きながら、そっと呼び声のする家の中に入った。
だけどすぐに出てきて風牙に入るように勧める。
風牙はぎゅっと唇を噛んだ。
精一杯落ち着こうとする。
それでも心臓が大きく揺れるのを止められやしない。
今でも十分に泣きそうなのだ。
もしかすると聞き間違いかもしれない。
期待してはいけない。
母が、自分の名を呼んだなんて――。
生まれてから一度も、呼んでもらったことがないのに。
扉にかけた手が震える。
力が入らない。
「炎馬……俺」
「行って来いよ」
あっさりと言い放った親友に、風牙は微笑みかけた。
「ああ」
そしてゆっくりと扉を開けた。
キャラが懐かしすぎて覚えてないかもしれません><。
ということで補足です↓
竜庵(りんあん)…本編敵役。現在は水将帝、つまり仲間。
風牙(ふうが)…風将帝。
炎馬(えんま)…火将帝。
鶴真(かくま)…炎馬の双子の妹。竜庵を可愛がっている。
柳生(りゅうき)…炎馬と鶴真の母親。
明花(めいか)…風牙の母親。ただし精神的な理由で風牙を亡き恋人・風馬と混同しているため、風牙が生まれてから一度も彼を自分の子だとは認識していない。
--------------------------------------
初めまして。
そう言って、黒い髪の男の子が訪ねてきた。
私も笑顔で答えたの、「初めまして」って。
一体何しに来たんだろう?
村の外の人なんて久しぶりに見た。
そう思っていると、彼は私にそっと近づいてきた。
初対面だったけれど、恐怖はなかった。
彼がとても優しい笑顔をしていたから。
手を出して。
僕の手を握って。
そして、そっと目を閉じて。
私は言われるがまま、彼の言う通りにした。
目を閉じると、瞼の上から彼の手の温もりを感じた。
何も怖いことはないよ。
静かに息をして、心を落ち着かせて。
――ねえ、何が見える?
「竜庵?」
鶴真は言った。
村人たちと楽しげに会話していた竜庵は、その声が聞こえ彼らに別れを告げる。
そして鶴真に駆け寄った。
「久しぶり!」
「もう! 来てたらすぐに言ってくれたら良かったのに! まっすぐうちに来なかったなんて珍しいね?」
「ちょっと行きたいところがあったから」
ここはセイン王国の端にある寂れた農村だ。しかし現火将帝・炎馬と風将帝・風牙の故郷である。
鶴真は炎馬の双子の妹で、とあるきっかけで知り合った竜庵はたまにこの村を訪れていた。
「行きたいところって?」
鶴真は訊いた。
「うーん…まだ内緒。どうだろう。失敗するかな。もしかすると風牙に怒られるかもしれない。余計なことするなって」
「風牙くんに? 竜庵ってば、風牙くんに何か悪戯でもしたのー?」
くすくすと笑う鶴真に、竜庵も笑いかけた。
「うん、成功すれば僕は嬉しい! 風牙がどう思うかは分からないけどね」
「で、肝心の風牙くんは?」
「もうすぐ来るんじゃないかな? “来て”って書き置きはして来たから」
そこに空から飛獣の鳴き声が聞こえてきた。
2人が見上げると、大きな茶色い飛獣が空を旋回している。
そして飛獣がゆっくりと高度を下げるのを待ちきれないかのように、2人の男が飛び降りてきた。
「お帰りなさい」
鶴真が言った。
飛獣の鳴き声につられて、村人たちも何があっているのかと集まってくる。
「おー炎馬と風牙じゃないか」
「久しぶりだなぁ」
「本当だよ、もっと帰ってくればいいのに」
そんな村人たちの声も気にすることなく、風牙は竜庵に詰め寄った。
「竜庵!」
「ああ、来てくれたんだ。炎馬も一緒なんだね」
「大丈夫なのか!?」
「心配しないで。嘘だから」
「は? 嘘……?」
「ほーらね」
炎馬が笑った。
「そんなことだろうって言っただろ? 竜庵がお前宛に“助けて”なんて書き置きするわけないって」
「なんだよ嘘かよ…! すっげー心配したのに!」
竜庵は照れたように笑う。
「うん…ありがとう」
「で、本題は何なんだよ。俺をこうして村に呼びつけた理由はさ!」
「あーそれは……」
竜庵はちらっとある家を見た。
その家は鶴真の家の隣にあって、とても小さな家だ。
住人は現在1人。――風牙が出て行くまでは、2人で暮らしていた。
「俺の、家……?」
今は風牙の母親が住んでいる。
しかし風牙は滅多にそこには帰らない。
彼女が精神を病んでいて、風牙を自分の子だと認識していないからだ。
風牙の面影に、風牙が生まれる前に死んだ父・風馬を見ているからだ。
それが辛くて辛くて、風牙は逃げ出した。
いつか父としてではなく、1人の人間として、彼女に認識してもらうことを誓って。
でもそれは既に親子であることを諦めていた証拠だった。
父と別の存在だと思ってもらえればいい。
子どもだとは分かってもらえなくても構わない。
「俺の家がどうした…? まさか母さんに何か…!?」
風牙は咄嗟に鶴真を見た。
足の不自由な風牙の母親は、鶴真たち一家が面倒を見ている。
彼女のことは鶴真に訊けば分かるはず。
鶴真は首を振った。
「いつも通りだよ…? 何も心配することはないはずだよっ」
「柳生!」
突然、その家の中から叫び声が聞こえてきた。
緊張が走る。
「柳生!」
その声は、親友である炎馬や鶴真の母親を呼んでいた。
「柳生! 柳生!
――風牙っ!!」
風牙は駆け出した。
柳生も慌てて家から出てくる。
そして普段村にいない3人がいることに驚きながら、そっと呼び声のする家の中に入った。
だけどすぐに出てきて風牙に入るように勧める。
風牙はぎゅっと唇を噛んだ。
精一杯落ち着こうとする。
それでも心臓が大きく揺れるのを止められやしない。
今でも十分に泣きそうなのだ。
もしかすると聞き間違いかもしれない。
期待してはいけない。
母が、自分の名を呼んだなんて――。
生まれてから一度も、呼んでもらったことがないのに。
扉にかけた手が震える。
力が入らない。
「炎馬……俺」
「行って来いよ」
あっさりと言い放った親友に、風牙は微笑みかけた。
「ああ」
そしてゆっくりと扉を開けた。
昔書いたのは、ここまでです。
---------------------------------------------------
10年。
もう10年も経ったのか。
あの、悪夢の日から。
庚がクーデターを起こし、信頼していた斎が裏切り、そして父上が庚の手によって殺されたときから――。
俺が、罪人の町、烟梓に送られたときから…!
思わず武者震いをした俺に、董狐が笑った。
「綸殿。気が高ぶっておられるのですか。宿敵を目の前に」
「当たり前だ。俺はあいつを許さない、絶対にこの手で……!!」
俺は自分の腰に下げている剣の柄を握った。
ドクンドクンと、心臓が早鐘する。
「そう焦らずに、我々紅雪軍の目的は、あくまで“あの男”です」
「“あの男”……斎か。もとは紅雪にいたという」
「紅雪を混乱に陥れ、追放され、そして黄凱へと流れ……再び黄凱を混乱の渦に沈めた男です」
「俄には信じられないな。俺は、少なくとも実際に裏切られるまでは、あいつがそんな奴だとは知らなかった…」
「でしょうね。おそらく、斎自身もよくは分かっていないものかと」
私の本心はなんだろう…?
知らない。
何も分からない。
国のために働きたかった。
民を救いたかった。
違う、民は何をやっても救われない。
死んで逃げることしかできない。
ならば民に死を与えてあげなければ。
――どんな王がよき王か。
民に優しい王か。
違う、民に死を与える王だ。
違う、違う、違う。
民は死んでも救われない。
死ねば幸せを感じることもできない。
私は何故黄凱に来た。
灯央様が狂王だから?
優佳様を愛していたから?
ならば何故優佳様を殺した。
愛していたのに殺したのは何故。
それは優佳様に死を与えてあげたかったから。
違う、そうじゃない。
「分からない…」
私は何がしたかった?
「斎を渡せ…?」
庚は嘲笑し、きっぱりと答える。
「断る」
「何故だ、理解に苦しむ。あいつを手元に置いておけば後悔するのは黄凱だ」
「分かっている」
「分かっているのに何故断る? あいつは本性を表さない限り確かに優秀な奴だが、でもだからと言って野放しにするわけにはいかない男だろう?」
「お前たちに斎を渡せばどうなる? あいつは紅雪という国で処刑されるのか。わざわざこんな所まで足を運んでそれはご苦労なことだと思うがな、あいつはもう紅雪とは何も関わりがないだろう?」
「我々は黄凱のことを思って」
「余計なお世話だ。あいつはもう紅雪には罰を受けた。“紅雪追放”――その罰を。そして黄凱までやって来た。黄凱の民となった」
「黄凱の民だから、皇帝である庚殿はあいつを守ると?」
「愚問だな」
「どうやら庚殿はあいつの本性を知らないらしい」
「知っている。知らないのはお前たちではないか? 本性? あいつにはそんなもの存在しない。全てがあいつの本心で、全てがあいつの意志だからだ。それを受け入れず追放したのはお前たちだろう。悪いがお引き取り願おうか」
「聞く耳無し、か。庚殿がそう言うのなら、こちらも手段を選ばなければなるまい。その前に会わせたい者がいるのだが?」
わずかに庚の体が揺れた。
「会わせたい者? 興味ないな。このまま帰らぬと言うのなら、戦うまでだ」
---------------------------------------------------
10年。
もう10年も経ったのか。
あの、悪夢の日から。
庚がクーデターを起こし、信頼していた斎が裏切り、そして父上が庚の手によって殺されたときから――。
俺が、罪人の町、烟梓に送られたときから…!
思わず武者震いをした俺に、董狐が笑った。
「綸殿。気が高ぶっておられるのですか。宿敵を目の前に」
「当たり前だ。俺はあいつを許さない、絶対にこの手で……!!」
俺は自分の腰に下げている剣の柄を握った。
ドクンドクンと、心臓が早鐘する。
「そう焦らずに、我々紅雪軍の目的は、あくまで“あの男”です」
「“あの男”……斎か。もとは紅雪にいたという」
「紅雪を混乱に陥れ、追放され、そして黄凱へと流れ……再び黄凱を混乱の渦に沈めた男です」
「俄には信じられないな。俺は、少なくとも実際に裏切られるまでは、あいつがそんな奴だとは知らなかった…」
「でしょうね。おそらく、斎自身もよくは分かっていないものかと」
私の本心はなんだろう…?
知らない。
何も分からない。
国のために働きたかった。
民を救いたかった。
違う、民は何をやっても救われない。
死んで逃げることしかできない。
ならば民に死を与えてあげなければ。
――どんな王がよき王か。
民に優しい王か。
違う、民に死を与える王だ。
違う、違う、違う。
民は死んでも救われない。
死ねば幸せを感じることもできない。
私は何故黄凱に来た。
灯央様が狂王だから?
優佳様を愛していたから?
ならば何故優佳様を殺した。
愛していたのに殺したのは何故。
それは優佳様に死を与えてあげたかったから。
違う、そうじゃない。
「分からない…」
私は何がしたかった?
「斎を渡せ…?」
庚は嘲笑し、きっぱりと答える。
「断る」
「何故だ、理解に苦しむ。あいつを手元に置いておけば後悔するのは黄凱だ」
「分かっている」
「分かっているのに何故断る? あいつは本性を表さない限り確かに優秀な奴だが、でもだからと言って野放しにするわけにはいかない男だろう?」
「お前たちに斎を渡せばどうなる? あいつは紅雪という国で処刑されるのか。わざわざこんな所まで足を運んでそれはご苦労なことだと思うがな、あいつはもう紅雪とは何も関わりがないだろう?」
「我々は黄凱のことを思って」
「余計なお世話だ。あいつはもう紅雪には罰を受けた。“紅雪追放”――その罰を。そして黄凱までやって来た。黄凱の民となった」
「黄凱の民だから、皇帝である庚殿はあいつを守ると?」
「愚問だな」
「どうやら庚殿はあいつの本性を知らないらしい」
「知っている。知らないのはお前たちではないか? 本性? あいつにはそんなもの存在しない。全てがあいつの本心で、全てがあいつの意志だからだ。それを受け入れず追放したのはお前たちだろう。悪いがお引き取り願おうか」
「聞く耳無し、か。庚殿がそう言うのなら、こちらも手段を選ばなければなるまい。その前に会わせたい者がいるのだが?」
わずかに庚の体が揺れた。
「会わせたい者? 興味ないな。このまま帰らぬと言うのなら、戦うまでだ」
カレンダー
カテゴリー
最新記事
最新コメント
ブログ内検索