還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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「篠塚宗士が、死んだ……?」
それはあまりにも衝撃的なニュースだった。
「それではこの研究所はどうなる?」
動揺を隠すために思ってもいないことを口にしていた。
研究所がどうなるとか本気で心配しているわけではない。ここまで大きな研究所だ、篠塚がいなくても幹部の誰かが立ってどうにか回っていくものなのだろう。
そうだ、彼1人死んだどころで私自身の生活が何か変わるわけではない。
「何故、私は……」
こんなにも動揺している?
そういえばかつて、こんなことを訊かれたことがある。
『人が死ぬことを、どう思う?』
「人とは誰のことです?」
私は隣に立っていた篠塚に訊いた。今は休憩時間――もっともそれは篠塚による強制的なもので、廊下で偶然すれ違った私を篠塚が呼び止めたのだ。
私には仕事があったのだが、裏庭での世間話に付き合うことを余儀なくされた。
篠塚は私に問い返されると苦笑する。
「人とはヒト、生物としての人間のことだ」
私にはこの男が喜びそうな答など分かっていた。
興味がないと、そう言えばいいのだ。どこで誰が死のうが関係がないと。
実際篠塚はそういう人間だ。人間が憎いわけではないのだろうに、いともたやすくその命を握り潰すことができる。
人間の命を消すことを、その辺に落ちている枯れ葉を踏みつぶすような感覚で行ってしまえる。
その感覚に周りの人間は怯えてしまうのだ。
彼は理解されることができず――孤独だった。
共感だ。
そうだ、彼は共感を求めているに違いない。
彼の求める答は分かっている、だからそれを答えればいい。
しかし私の口からは違う言葉が出て来た。
「貴方には、死んで欲しくない人がいないのですか?」
無意識に出て来たものだ。
ずっと心の奥底でいつか聞いてみたいと、眠らせていた問かもしれない。
それがつい、今この場面で、出て来てしまった。
篠塚は穏やかな顔をのぞかせ、私に微笑みかけた。
ほっと安堵する。この人も人間だったのだと思わせる笑顔だ。
「私には子どもがいてね」
「はい」
やはりこの人だって、自分の子どもが可愛いのだろう。
しかし家族がいたとは知らなかった。
「ついこの間も生まれたんだ、女の子だよ」
「将来が楽しみでしょう」
「ああ――別に」
私は固まった。
そう、目の前にいるのは篠塚宗士。
期待などしてはいけない。
「自分の子どもの命すらどうでもいいんだ、私は」
初めから期待できないことは分かり切っていた。
――何故期待してしまったんだ、私は。
一瞬でも、わずかでも、この男が人並みの心を持っていると錯覚してしまった。
「もしも私が死んだら、君はどう思うだろう?」
「それは……」
「人の命がどうでもいい私が、もし自分が死んだら悲しんで欲しいと考えるのはわがままだ」
私は眉をひそめ、答える。
「そうですね」
篠塚は苦笑した。
「君は正直だな」
「でも貴方はいつだってわがままですから、今更それくらいのわがままには驚きませんよ」
「そうか。では君は悲しんでくれるのか?」
「はっ…………まさか。貴方に付き合うのは、疲れます」
「それでいい」
再び篠塚が笑顔を見せた。
何故今、そんな笑顔を見せる?
私にはこの人が分からない。この人を理解できる人間などいない。
そしてこの人は語らない。自分の複雑な胸中を、おそらく一生語ることはない。
共感も理解も求めない。自分のテリトリーに、誰も一歩たりとも踏み込ませない。
――私はおかしい。
何故それを、“寂しい”などと感じてしまっている……?
「私は……貴方を恨んでもいい立場の人間のはずだ」
思わず呟いた。
篠塚に聞こえることなど考えから抜けていた。
なんだこれは。生物の“愛着”というやつか。
篠塚が何故か私を気に入っていることは分かっていた。
それを感じて、共にいるうちに情が移ってしまったのか。
「私は貴方が嫌いだ」
まっすぐに篠塚を見据え、はっきりとそう言った。
それはあまりにも衝撃的なニュースだった。
「それではこの研究所はどうなる?」
動揺を隠すために思ってもいないことを口にしていた。
研究所がどうなるとか本気で心配しているわけではない。ここまで大きな研究所だ、篠塚がいなくても幹部の誰かが立ってどうにか回っていくものなのだろう。
そうだ、彼1人死んだどころで私自身の生活が何か変わるわけではない。
「何故、私は……」
こんなにも動揺している?
そういえばかつて、こんなことを訊かれたことがある。
『人が死ぬことを、どう思う?』
「人とは誰のことです?」
私は隣に立っていた篠塚に訊いた。今は休憩時間――もっともそれは篠塚による強制的なもので、廊下で偶然すれ違った私を篠塚が呼び止めたのだ。
私には仕事があったのだが、裏庭での世間話に付き合うことを余儀なくされた。
篠塚は私に問い返されると苦笑する。
「人とはヒト、生物としての人間のことだ」
私にはこの男が喜びそうな答など分かっていた。
興味がないと、そう言えばいいのだ。どこで誰が死のうが関係がないと。
実際篠塚はそういう人間だ。人間が憎いわけではないのだろうに、いともたやすくその命を握り潰すことができる。
人間の命を消すことを、その辺に落ちている枯れ葉を踏みつぶすような感覚で行ってしまえる。
その感覚に周りの人間は怯えてしまうのだ。
彼は理解されることができず――孤独だった。
共感だ。
そうだ、彼は共感を求めているに違いない。
彼の求める答は分かっている、だからそれを答えればいい。
しかし私の口からは違う言葉が出て来た。
「貴方には、死んで欲しくない人がいないのですか?」
無意識に出て来たものだ。
ずっと心の奥底でいつか聞いてみたいと、眠らせていた問かもしれない。
それがつい、今この場面で、出て来てしまった。
篠塚は穏やかな顔をのぞかせ、私に微笑みかけた。
ほっと安堵する。この人も人間だったのだと思わせる笑顔だ。
「私には子どもがいてね」
「はい」
やはりこの人だって、自分の子どもが可愛いのだろう。
しかし家族がいたとは知らなかった。
「ついこの間も生まれたんだ、女の子だよ」
「将来が楽しみでしょう」
「ああ――別に」
私は固まった。
そう、目の前にいるのは篠塚宗士。
期待などしてはいけない。
「自分の子どもの命すらどうでもいいんだ、私は」
初めから期待できないことは分かり切っていた。
――何故期待してしまったんだ、私は。
一瞬でも、わずかでも、この男が人並みの心を持っていると錯覚してしまった。
「もしも私が死んだら、君はどう思うだろう?」
「それは……」
「人の命がどうでもいい私が、もし自分が死んだら悲しんで欲しいと考えるのはわがままだ」
私は眉をひそめ、答える。
「そうですね」
篠塚は苦笑した。
「君は正直だな」
「でも貴方はいつだってわがままですから、今更それくらいのわがままには驚きませんよ」
「そうか。では君は悲しんでくれるのか?」
「はっ…………まさか。貴方に付き合うのは、疲れます」
「それでいい」
再び篠塚が笑顔を見せた。
何故今、そんな笑顔を見せる?
私にはこの人が分からない。この人を理解できる人間などいない。
そしてこの人は語らない。自分の複雑な胸中を、おそらく一生語ることはない。
共感も理解も求めない。自分のテリトリーに、誰も一歩たりとも踏み込ませない。
――私はおかしい。
何故それを、“寂しい”などと感じてしまっている……?
「私は……貴方を恨んでもいい立場の人間のはずだ」
思わず呟いた。
篠塚に聞こえることなど考えから抜けていた。
なんだこれは。生物の“愛着”というやつか。
篠塚が何故か私を気に入っていることは分かっていた。
それを感じて、共にいるうちに情が移ってしまったのか。
「私は貴方が嫌いだ」
まっすぐに篠塚を見据え、はっきりとそう言った。
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