還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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董狐は元紅雪の軍人だ。そして今は黄凱の宮殿で、普段は翏の教師の1人として働いている。
また詩紀や俺が何か情報を得たいときに彼を派遣する。彼は密偵としてとても優秀だ。紅雪を抜けて黄凱に残ってくれて本当に助かっている。
何より俺は彼との付き合いが長い。詩紀や愬とほぼ同じくらいの時期に出会った。彼は信頼できる人物だと知っている。信頼があって付き合いやすい人物が宮殿に少しでも多くいると、俺も仕事がしやすい。
「でも、何故お前は黄凱に残ったんだ?」
俺は常々疑問に思っていたことを董狐に尋ねてみた。
現在俺は詩紀の執務室にいる。そこで詩紀と董狐と3人で、次に董狐に探ってもらう国についての打ち合わせをしているところだった。
「唐突ですね」
董狐は苦笑した。
「不思議だよな、詩紀」
俺が言うと詩紀も頷く。
「そうだけど。董狐が黄凱にいたいっていうのを断る理由もなかったし、寧ろ歓迎すべきことだったから……特に今まで話題に出したことはなかったね。ちょうどいい。どうして? 董狐」
董狐は右手で自分の髪を触った。彼は長めの髪を1つに束ねている。
「そうですね……綸殿、初めて出会ったときのこと、覚えてらっしゃいます?」
「あーうん、一応」
「そのとき私の髪、短かったでしょう」
俺は記憶を辿った。
「そういえば。髪が立つぐらいに短かった」
「あれが紅雪軍における兵士の髪形です。ですが私は東方の諜報の任に就きまして、紅雪とは手紙のやり取りだけになりました。ですので髪を伸ばしてみたのです」
「へえ……」
って、まさか。
「ところが数ヶ月前紅雪軍が黄凱を攻めた件で髪を伸ばしていることが上官の知る所となりました。髪を切れと命令されたのですが、私としましては、この髪形がいたく気に入っておりましたので」
「だから紅雪軍を辞めて黄凱に残った、と……?」
そんな馬鹿な。
詩紀は笑っている。
「まさかそんな下らない理由だったなんて」
“下らない”ってはっきり言っちゃったよ、こいつ。
董狐は肯定するかのようににっこりと微笑んだ。そして言う。
「私には大問題だったのですよ」
俺は首を傾げた。
「でもそれだけの理由で故郷を捨てるなんて」
「いいえ、紅雪は故郷ではありません。私は蒼游の生まれです」
「蒼游!? 黄凱のすぐ隣じゃないか」
「そうです。私が東方に派遣されたのは東方出身で、この辺りの文化や地理に明るかったからです」
しかし、紅雪なんて随分と離れた国に。
そんなことを思っていると、それを察して董狐は話を続けた。
「仕事を探すには大きな都が一番だったものですから。蒼游が貧しい国であることは御存知でしょう。土が悪く作物は上手く育ちませんし、採れるような資源や鉱物もありません。土地環境が非常に悪い国で、代わりに医療技術などが発展しましたが、それによる利益は国の支配階級の者たちだけのものとなっております」
「うん……知ってる」
「ですので私は12のとき、家を出て他国に出稼ぎに行くことを決意しました。まず考えたのは黄凱です。黄凱は豊かな国ですので、そこで暮らすことができたなら飢えの心配はありません。しかし当時の黄凱は灯央様の治世ですが、他国からの移民は尽く制限されておりました」
「そうらしいな。俺も皇帝の補佐の任に就いて国政の記録を洗いざらい調べて知ったよ。いかに黄凱が閉鎖的で、父上が国外に興味が無かったかをね」
だからこそ叔父上もクーデターを起こしたのだと知っていたから、これ以上父上のことを知ってももう驚きはしない。
「これは面倒だと思い黄凱以外に目を向けた時、蒼游よりはましと致しましてもどこの国も決して豊かとは言えず、遠方まで足を運ぶことを考えました。そこで知ったのですが、事情があって、紅雪のある州が人を集めていました。移民税もなく行けば国籍と家が与えられると」
「事情……?」
事情って何だろう。そんなにまでして人を集めたがるなんて。人口が急激に減ったのか?
俺が呟くと董狐は困ったように笑った。
「その……斎殿のことは、どれくらいご存じなのでございましょう」
「斎? …………ああ、そうか。分かった。聞いているよ」
そうだ、斎だ。彼が人口を減らしたのだ。
だから州に人がいなくなった。人がいなくては町など成り立つはずもない。税も徴収できない。一気に州としての機能を失ってしまう。国内の人々はその州に行くのを躊躇うだろう。斎という役人がやったことを知っていて、その土地を恐れている。国外からの移民を募った方がはるかに人を集めやすい。
「幸運にも、と言ってもよろしいのでしょうか。あまりに残酷なできごとがあった悲しい土地に私は移住し、兵士の数も足りなくなっておりましたので、すんなりと軍に入ることができました。私には性に合う職業だったようで、ついには都にも呼ばれて首都の軍人となったのです」
「へえ」
そして髪形を理由に紅雪軍を脱退した、ね。
「何はともあれ董狐。お前が俺たちと共にいてくれること、本当に助かっているよ」
俺が言うと董狐はくすくすと笑った。
「私も、そういう風に素直に言える方の下につけて大変喜ばしく思っております」
「俺もちゃんと感謝してるからね」
付け加えるように詩紀が言った。
「ええ、分かっております」
「だからさ、董狐」
俺は董狐の目をまっすぐに見る。
「か、髪形の自由なんていくらでも許すから、これからもよろしくな?」
「大丈夫です。髪を切れなんて言われない限り、私はこの国に忠誠を誓います」
それは“一生”というのと同じこと。
俺たちは約束するかのように固く握手をし、打ち合わせに戻った。
また詩紀や俺が何か情報を得たいときに彼を派遣する。彼は密偵としてとても優秀だ。紅雪を抜けて黄凱に残ってくれて本当に助かっている。
何より俺は彼との付き合いが長い。詩紀や愬とほぼ同じくらいの時期に出会った。彼は信頼できる人物だと知っている。信頼があって付き合いやすい人物が宮殿に少しでも多くいると、俺も仕事がしやすい。
「でも、何故お前は黄凱に残ったんだ?」
俺は常々疑問に思っていたことを董狐に尋ねてみた。
現在俺は詩紀の執務室にいる。そこで詩紀と董狐と3人で、次に董狐に探ってもらう国についての打ち合わせをしているところだった。
「唐突ですね」
董狐は苦笑した。
「不思議だよな、詩紀」
俺が言うと詩紀も頷く。
「そうだけど。董狐が黄凱にいたいっていうのを断る理由もなかったし、寧ろ歓迎すべきことだったから……特に今まで話題に出したことはなかったね。ちょうどいい。どうして? 董狐」
董狐は右手で自分の髪を触った。彼は長めの髪を1つに束ねている。
「そうですね……綸殿、初めて出会ったときのこと、覚えてらっしゃいます?」
「あーうん、一応」
「そのとき私の髪、短かったでしょう」
俺は記憶を辿った。
「そういえば。髪が立つぐらいに短かった」
「あれが紅雪軍における兵士の髪形です。ですが私は東方の諜報の任に就きまして、紅雪とは手紙のやり取りだけになりました。ですので髪を伸ばしてみたのです」
「へえ……」
って、まさか。
「ところが数ヶ月前紅雪軍が黄凱を攻めた件で髪を伸ばしていることが上官の知る所となりました。髪を切れと命令されたのですが、私としましては、この髪形がいたく気に入っておりましたので」
「だから紅雪軍を辞めて黄凱に残った、と……?」
そんな馬鹿な。
詩紀は笑っている。
「まさかそんな下らない理由だったなんて」
“下らない”ってはっきり言っちゃったよ、こいつ。
董狐は肯定するかのようににっこりと微笑んだ。そして言う。
「私には大問題だったのですよ」
俺は首を傾げた。
「でもそれだけの理由で故郷を捨てるなんて」
「いいえ、紅雪は故郷ではありません。私は蒼游の生まれです」
「蒼游!? 黄凱のすぐ隣じゃないか」
「そうです。私が東方に派遣されたのは東方出身で、この辺りの文化や地理に明るかったからです」
しかし、紅雪なんて随分と離れた国に。
そんなことを思っていると、それを察して董狐は話を続けた。
「仕事を探すには大きな都が一番だったものですから。蒼游が貧しい国であることは御存知でしょう。土が悪く作物は上手く育ちませんし、採れるような資源や鉱物もありません。土地環境が非常に悪い国で、代わりに医療技術などが発展しましたが、それによる利益は国の支配階級の者たちだけのものとなっております」
「うん……知ってる」
「ですので私は12のとき、家を出て他国に出稼ぎに行くことを決意しました。まず考えたのは黄凱です。黄凱は豊かな国ですので、そこで暮らすことができたなら飢えの心配はありません。しかし当時の黄凱は灯央様の治世ですが、他国からの移民は尽く制限されておりました」
「そうらしいな。俺も皇帝の補佐の任に就いて国政の記録を洗いざらい調べて知ったよ。いかに黄凱が閉鎖的で、父上が国外に興味が無かったかをね」
だからこそ叔父上もクーデターを起こしたのだと知っていたから、これ以上父上のことを知ってももう驚きはしない。
「これは面倒だと思い黄凱以外に目を向けた時、蒼游よりはましと致しましてもどこの国も決して豊かとは言えず、遠方まで足を運ぶことを考えました。そこで知ったのですが、事情があって、紅雪のある州が人を集めていました。移民税もなく行けば国籍と家が与えられると」
「事情……?」
事情って何だろう。そんなにまでして人を集めたがるなんて。人口が急激に減ったのか?
俺が呟くと董狐は困ったように笑った。
「その……斎殿のことは、どれくらいご存じなのでございましょう」
「斎? …………ああ、そうか。分かった。聞いているよ」
そうだ、斎だ。彼が人口を減らしたのだ。
だから州に人がいなくなった。人がいなくては町など成り立つはずもない。税も徴収できない。一気に州としての機能を失ってしまう。国内の人々はその州に行くのを躊躇うだろう。斎という役人がやったことを知っていて、その土地を恐れている。国外からの移民を募った方がはるかに人を集めやすい。
「幸運にも、と言ってもよろしいのでしょうか。あまりに残酷なできごとがあった悲しい土地に私は移住し、兵士の数も足りなくなっておりましたので、すんなりと軍に入ることができました。私には性に合う職業だったようで、ついには都にも呼ばれて首都の軍人となったのです」
「へえ」
そして髪形を理由に紅雪軍を脱退した、ね。
「何はともあれ董狐。お前が俺たちと共にいてくれること、本当に助かっているよ」
俺が言うと董狐はくすくすと笑った。
「私も、そういう風に素直に言える方の下につけて大変喜ばしく思っております」
「俺もちゃんと感謝してるからね」
付け加えるように詩紀が言った。
「ええ、分かっております」
「だからさ、董狐」
俺は董狐の目をまっすぐに見る。
「か、髪形の自由なんていくらでも許すから、これからもよろしくな?」
「大丈夫です。髪を切れなんて言われない限り、私はこの国に忠誠を誓います」
それは“一生”というのと同じこと。
俺たちは約束するかのように固く握手をし、打ち合わせに戻った。
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