還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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「で、連れ帰ってきたわけか。りんご食べる?」
詩紀は翏にりんごを渡した。
「俺にもくれよ」
そう言った愬にもりんごを1つ放り投げる。
だいたい、どうして今日はこんなにりんごが大量にあるんだろう。
「安かったんだ」
俺の表情から察したのか、詩紀が俺にもりんごを渡しながら言った。
「市場でさ、やけにりんごを安く売ってて」
「市場って…外のだろ。また勝手に町を出て」
「ばれなきゃいいだろ。どうせこの町を監視している奴らなんて、本気でやっちゃいないんだから。第一いろんなところにいろんな人間が雇われてこの町を出てるし。でも結局は皆戻って来てるけど。世界でいちばんここが楽だからね。何をやっても捕まったり処刑されたりすることはない」
詩紀はテーブルの椅子を引き、そこに翏を座らせた。
「まずはきちんと自己紹介をしようか。俺は詩紀。年は27」
愬も翏の目の前に座る。
「俺は愬。年は26」
そして当然翏の視線は俺にも注がれた。
「燐、という。年は25だ」
「“リン”…?」
「“燐”――火の名前だよ」
「火の……名前」
翏は悲しそうに微笑んだ。
「貴方を見ていると、私がまだ幼いころに亡くなったお兄様を思い出します。名前の音が同じだからでしょうか?」
「へえ、あんた兄貴がいたんだ」
愬が身を乗り出す。
「はい。もっとも、幼かったのであまり覚えてはいませんが。でも、とても優しかったような、そんな気がするんです」
「“お兄様”、ね」
詩紀は俺を見た。
「ちょっと買い物に行きたいな。燐、付き合ってよ。彼女のことは愬に任せてさ。そろそろ夕飯の支度しなきゃ」
「今日の晩御飯はりんごだと思ってたよ」
「俺はそれでも構わないんだけど。彼女を歓迎するには物足りないだろ?」
「――分かったよ」
俺に話があるんだな。
「斎様! 税を3割も増やすなんて…! これでは生活が苦しく――」
訴える役人に、斎はあっさりと言う。
「皇帝命令です」
「そんな…っ。いくら皇帝命令でも、貴方は何とも思わないのですか!?」
「――皇帝命令です」
「斎様! 確かにあの町の者たちは反乱を起こしました! でもそれは私の監督不行き届き! どうか罰するのなら私を!」
斎は書類を役人に押しつける。
「さっさと自分が治めるべき町へと帰りなさい」
「斎様…! お待ちください、お話を…」
「早く、帰りなさい」
「斎様!」
斎は役人の前から姿を消した。
「3割増えても、生活が立ち行かなくなるわけではない…」
斎は歩きながら呟く。
3割というのは実に巧妙な数字だった。
それだけ税を増されては贅沢はできないかもしれない。しかし生活するには十分なのだ。
この豊かな国、黄凱においては。
それで文句を言うなど、貧困に喘ぐ国から見れば何とも生ぬるい話。
そもそも短期間で反乱が勃発するのも豊かな所為ではないのか。
武器はある。食料も十分。民にお金があるのだ。さんざんまで窮地に立たされて起こす一揆ではない。
反乱というよりは皇帝に対する抗議運動。その域を出ない。
「庚様が武器を取り上げることも、ない……」
「素直に訊くよ。彼女、あんたの妹だろ」
あまりに素直すぎて俺は一瞬固まった。
「詩紀、何故そう思った?」
「そっくりだ。雰囲気が。10年前のあんたと」
「――なるほどな」
「そして着ている服。あれは東方の国々の民族衣装。10年前、あんたが着ていた服もあんな感じだったろ?」
俺は頷いた。
詩紀は口が堅い。喋ることに抵抗はない。
「あの子の中では燐は死んだことになってるんだな。でも実際、あんたはこの町へとやって来ていた」
「誰かが俺は死んだと翏に言ったんだろ。だが事実を見れば俺は死んだも同然だった」
俺たちはぶらぶらと町の中を歩きながら、人気のないところに腰を下ろした。
「自分でも何故生きているのか分からない。死を覚悟したはずなのに、思いがけず生かされてしまった。――しかしまさか、翏までここに来るとはな」
母上がいる限り、翏には手を出さないと思っていたのに。
詩紀は言う。
「彼女は“お兄様”と言っていた。身内を敬称で呼ぶなんて皇族か貴族ぐらいなものだね」
「“皇族”って……」
世界には帝国よりも王国の方が断然多い。
つまり“皇族”より“王族”の方が一般的だ。
それなのに何故詩紀は“皇族”と限定したんだ?
「悪いね、燐。あんたがいつも情報を買ってる男……董狐を人を雇ってつけさせてもらったよ」
「なっ……!」
行先は極東の国・黄凱。あんたが買っていたのは黄凱の情報だ。
「詩紀……?」
「驚いたよ、まさか同郷だったとは。ねえ? 綸様」
「喜べ、斎。ようやく優佳が私の手中に落ちた」
庚は玉座に座り満足そうに言った。
「優佳様が…?」
「ああ。だから、これから私は本格的に政務を執り行おう」
「では……!!」
「お前に見せてあげよう。私の作る国というものを」
これからまた、何かが動き出して行く。
詩紀は翏にりんごを渡した。
「俺にもくれよ」
そう言った愬にもりんごを1つ放り投げる。
だいたい、どうして今日はこんなにりんごが大量にあるんだろう。
「安かったんだ」
俺の表情から察したのか、詩紀が俺にもりんごを渡しながら言った。
「市場でさ、やけにりんごを安く売ってて」
「市場って…外のだろ。また勝手に町を出て」
「ばれなきゃいいだろ。どうせこの町を監視している奴らなんて、本気でやっちゃいないんだから。第一いろんなところにいろんな人間が雇われてこの町を出てるし。でも結局は皆戻って来てるけど。世界でいちばんここが楽だからね。何をやっても捕まったり処刑されたりすることはない」
詩紀はテーブルの椅子を引き、そこに翏を座らせた。
「まずはきちんと自己紹介をしようか。俺は詩紀。年は27」
愬も翏の目の前に座る。
「俺は愬。年は26」
そして当然翏の視線は俺にも注がれた。
「燐、という。年は25だ」
「“リン”…?」
「“燐”――火の名前だよ」
「火の……名前」
翏は悲しそうに微笑んだ。
「貴方を見ていると、私がまだ幼いころに亡くなったお兄様を思い出します。名前の音が同じだからでしょうか?」
「へえ、あんた兄貴がいたんだ」
愬が身を乗り出す。
「はい。もっとも、幼かったのであまり覚えてはいませんが。でも、とても優しかったような、そんな気がするんです」
「“お兄様”、ね」
詩紀は俺を見た。
「ちょっと買い物に行きたいな。燐、付き合ってよ。彼女のことは愬に任せてさ。そろそろ夕飯の支度しなきゃ」
「今日の晩御飯はりんごだと思ってたよ」
「俺はそれでも構わないんだけど。彼女を歓迎するには物足りないだろ?」
「――分かったよ」
俺に話があるんだな。
「斎様! 税を3割も増やすなんて…! これでは生活が苦しく――」
訴える役人に、斎はあっさりと言う。
「皇帝命令です」
「そんな…っ。いくら皇帝命令でも、貴方は何とも思わないのですか!?」
「――皇帝命令です」
「斎様! 確かにあの町の者たちは反乱を起こしました! でもそれは私の監督不行き届き! どうか罰するのなら私を!」
斎は書類を役人に押しつける。
「さっさと自分が治めるべき町へと帰りなさい」
「斎様…! お待ちください、お話を…」
「早く、帰りなさい」
「斎様!」
斎は役人の前から姿を消した。
「3割増えても、生活が立ち行かなくなるわけではない…」
斎は歩きながら呟く。
3割というのは実に巧妙な数字だった。
それだけ税を増されては贅沢はできないかもしれない。しかし生活するには十分なのだ。
この豊かな国、黄凱においては。
それで文句を言うなど、貧困に喘ぐ国から見れば何とも生ぬるい話。
そもそも短期間で反乱が勃発するのも豊かな所為ではないのか。
武器はある。食料も十分。民にお金があるのだ。さんざんまで窮地に立たされて起こす一揆ではない。
反乱というよりは皇帝に対する抗議運動。その域を出ない。
「庚様が武器を取り上げることも、ない……」
「素直に訊くよ。彼女、あんたの妹だろ」
あまりに素直すぎて俺は一瞬固まった。
「詩紀、何故そう思った?」
「そっくりだ。雰囲気が。10年前のあんたと」
「――なるほどな」
「そして着ている服。あれは東方の国々の民族衣装。10年前、あんたが着ていた服もあんな感じだったろ?」
俺は頷いた。
詩紀は口が堅い。喋ることに抵抗はない。
「あの子の中では燐は死んだことになってるんだな。でも実際、あんたはこの町へとやって来ていた」
「誰かが俺は死んだと翏に言ったんだろ。だが事実を見れば俺は死んだも同然だった」
俺たちはぶらぶらと町の中を歩きながら、人気のないところに腰を下ろした。
「自分でも何故生きているのか分からない。死を覚悟したはずなのに、思いがけず生かされてしまった。――しかしまさか、翏までここに来るとはな」
母上がいる限り、翏には手を出さないと思っていたのに。
詩紀は言う。
「彼女は“お兄様”と言っていた。身内を敬称で呼ぶなんて皇族か貴族ぐらいなものだね」
「“皇族”って……」
世界には帝国よりも王国の方が断然多い。
つまり“皇族”より“王族”の方が一般的だ。
それなのに何故詩紀は“皇族”と限定したんだ?
「悪いね、燐。あんたがいつも情報を買ってる男……董狐を人を雇ってつけさせてもらったよ」
「なっ……!」
行先は極東の国・黄凱。あんたが買っていたのは黄凱の情報だ。
「詩紀……?」
「驚いたよ、まさか同郷だったとは。ねえ? 綸様」
「喜べ、斎。ようやく優佳が私の手中に落ちた」
庚は玉座に座り満足そうに言った。
「優佳様が…?」
「ああ。だから、これから私は本格的に政務を執り行おう」
「では……!!」
「お前に見せてあげよう。私の作る国というものを」
これからまた、何かが動き出して行く。
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昨日3D映画「アバター」を観ました。
通常より300円高かった…!(そこか)
内容はあれです、王道ですね^^先は読めますが、あれはたぶん、3Dとアクションを楽しむものなんでしょう。
その3Dなんですが、私は体質的に3Dが合わなかったみたいです^^;
開始1分で激しい目の痛みに悩まされつつ、しかし勿体ないのでところどころ眼鏡外して休憩しながらなんとか2時間40分観ました。
その後は目の痛みと頭痛との戦いです><。
よほど目を疲労させちゃったんでしょう^^;
映画の前の宣伝も3D映画の宣伝ばかり。これから増えていくんだろうなぁ。
私は今度映画館で観るとしたら、すごく後ろの方の席にしたいと思います。(効果は不明)
通常より300円高かった…!(そこか)
内容はあれです、王道ですね^^先は読めますが、あれはたぶん、3Dとアクションを楽しむものなんでしょう。
その3Dなんですが、私は体質的に3Dが合わなかったみたいです^^;
開始1分で激しい目の痛みに悩まされつつ、しかし勿体ないのでところどころ眼鏡外して休憩しながらなんとか2時間40分観ました。
その後は目の痛みと頭痛との戦いです><。
よほど目を疲労させちゃったんでしょう^^;
映画の前の宣伝も3D映画の宣伝ばかり。これから増えていくんだろうなぁ。
私は今度映画館で観るとしたら、すごく後ろの方の席にしたいと思います。(効果は不明)
何故か私が書くと昼ドラ的なドロドロに。笑”
しかも身内で。
「パンドラの箱」の書き始めも同時期です。
一体5年前の私に何が…!笑”
あの人は突然私たちの元にやって来て。
嬉しそうに笑いながら言ったの。
お父様とお兄様には、もう二度と会えないって。
「ここは、どこですか…?」
彼女はその怯えた瞳で、まっすぐに俺を捉える。
「この町の名は烟梓」
答えたのは愬だった。
「ようこそ、罪人の町へ」
「罪人……?」
「そう、この町に住むのは罪を問われた奴らばっか。綺麗な綺麗なお嬢さん。この町では誰も助けてはくれないぜ。自力で自分の生きる術ってのを見つけるんだ」
愬はそう言うと翏に近づき、その肩に手を回す。
「金は持ってるか? それ次第なら俺がなんとか世話してやってもいい。俺の元にいりゃ他の連中から余計なちょっかいも受けねぇだろ」
「……金…?」
翏は不思議そうな顔をした。
無理もない。
おそらくは10年前のあれから、外になんて出してもらえなかっただろう。
当時まだ翏は6、7歳頃だ。宮殿ばかりにいたから、お金なんてものの存在はその時も知らなかっただろうし、成長してからも軟禁されていたはずの身では知る由もない。
愬はきょろきょろと辺りを見回した。
「俺の他にこの女が欲しいって奴は? ついでだし今聞いておくぜ」
「そんな……愬と張り合うなんて…」
「身の程知らずもいいとこだろ…」
皆が口々に言う声を聞いて愬は笑う。
「んじゃあ――」
と何かを言いかけたとき、俺は剣を抜いて愬に向けた。
「俺も、欲しいな」
「燐が? 珍しいな。お前が女に興味持つなんて。それじゃあこの女が金を持っていないってんならお前に譲るよ」
「ありがとな。……翏って言ったっけ? お前、その様子じゃ“金”がなんだか分かっていないみたいだな」
翏は突然俺に話しかけられ、震える声で答える。
「わ…分かりません…すみません…」
「なぁんだ!」
愬は翏の肩から手を離した。
「じゃあお前にやるよ。っつってもまぁ、どうせ行く家(とこ)は同じなんだけどな。んでもって良かったな、お嬢さん。金もない奴を世話しようなんて物好き、きっとこいつぐらいだぜ」
俺は笑って周りの男たちを見た。
「そういうことになった。こいつに――翏に何かすれば、俺を敵に回すと思え」
黄凱の後宮に、庚が足を踏み入れる。
いちばん奥の部屋で前皇妃・優佳は軟禁されていた。
彼女は凛とした佇まいでそこに座っている。
「出てお行きなさい、庚」
部屋の前に庚が到着したのを感じ取ると、優佳ははっきりとそう言った。
「ここをどこだと思っているんです」
言われ、庚は部屋の扉を開ける。
「貴女こそ、私を誰だと思っているんですか」
優佳は決して庚と目を合わせない。
「――――薄汚い、獣でしょう」
庚は一瞬顔をしかめた。
「獣、ですか。この、私が」
「それ以外に例えがあるのならお聞かせ願いますか。何かを成し遂げようとするときに力に物を言わせて行おうとする行為。実に獣らしい行いだと、そうは思いませんか? 前皇弟・庚殿」
「今は皇帝ですよ。そして貴女には、再び皇妃になってもらいます」
「そんなことをしてごらんなさい。私は潔くこの身を果てましょう。お前は灯央様から皇帝の位を奪った。国を、民を、そして最も信頼していた斎(とも)を奪いました。……なんとしてでも、私だけは奪われるわけにはいかないのです」
「本当に、それが貴女の本心ですか」
思わず優佳は庚を見た。
「それほど兄上を本当に愛しておられたのですか? ご冗談を」
「庚……!」
「兄上を少しも愛してなどいなかったくせに。ただ皇妃となりたかっただけでしょう?」
「違う!」
「違う? ああ、そうですね。少し違いますね。言い換えましょう。貴女は皇妃になって、ただ私に復讐したかった」
「庚……!!」
「裏切った私に復讐したかった。――そうだろう? 優佳」
「私は!」
「ひどい女(ひと)だ。貴女はずっとそうやって、兄上をだまし続けてきた。兄上はもう死んだのだよ。今更そんな風に兄上の最良の妻であることを演じても、私には白々しく見える」
優佳は何も言わずに俯いた。
「自分の娘を心配している様子もないなんて。翏が兄上の子どもだから?」
優佳は無言のまま動かない。
「10年前、綸が消えたと知って貴女はひどく取り乱した」
綸、お前は何も知らなかった。
お前は言った。
翏を殺せば母が狂うかもしれないから、私には翏を殺せないはずだ、と。
そんなことはない。
実際翏が消えても、この女は平然としている。
私だってまさか、こんなにも翏の存在が優佳にとって薄いものだったとは予想外だ。
浅ましい女なんだよ、お前たちの母親は。
けれどそれ以上に美しく、私を惹いて離さない。
「だって…綸は…っ」
優佳が呟くと、庚は彼女の耳元でそっと囁く。
「本心を聞かせて欲しい。私は10年も待ったんだ。翏(あのこ)も、もうここにはいない」
「私…は……!」
「貴女と兄上を縛るものは、もうない」
「私……!!」
「本心を。私はただ、それだけを望む」
優佳は涙目になりながら庚に抱きつき、およそ25年、言いたくて止まなかった言葉を口にした。
「愛しています、庚――」
ただ、ただ。
この世に生まれて愛した男(ひと)は、ただ1人。
庚という名の、傲慢な男。
しかも身内で。
「パンドラの箱」の書き始めも同時期です。
一体5年前の私に何が…!笑”
あの人は突然私たちの元にやって来て。
嬉しそうに笑いながら言ったの。
お父様とお兄様には、もう二度と会えないって。
「ここは、どこですか…?」
彼女はその怯えた瞳で、まっすぐに俺を捉える。
「この町の名は烟梓」
答えたのは愬だった。
「ようこそ、罪人の町へ」
「罪人……?」
「そう、この町に住むのは罪を問われた奴らばっか。綺麗な綺麗なお嬢さん。この町では誰も助けてはくれないぜ。自力で自分の生きる術ってのを見つけるんだ」
愬はそう言うと翏に近づき、その肩に手を回す。
「金は持ってるか? それ次第なら俺がなんとか世話してやってもいい。俺の元にいりゃ他の連中から余計なちょっかいも受けねぇだろ」
「……金…?」
翏は不思議そうな顔をした。
無理もない。
おそらくは10年前のあれから、外になんて出してもらえなかっただろう。
当時まだ翏は6、7歳頃だ。宮殿ばかりにいたから、お金なんてものの存在はその時も知らなかっただろうし、成長してからも軟禁されていたはずの身では知る由もない。
愬はきょろきょろと辺りを見回した。
「俺の他にこの女が欲しいって奴は? ついでだし今聞いておくぜ」
「そんな……愬と張り合うなんて…」
「身の程知らずもいいとこだろ…」
皆が口々に言う声を聞いて愬は笑う。
「んじゃあ――」
と何かを言いかけたとき、俺は剣を抜いて愬に向けた。
「俺も、欲しいな」
「燐が? 珍しいな。お前が女に興味持つなんて。それじゃあこの女が金を持っていないってんならお前に譲るよ」
「ありがとな。……翏って言ったっけ? お前、その様子じゃ“金”がなんだか分かっていないみたいだな」
翏は突然俺に話しかけられ、震える声で答える。
「わ…分かりません…すみません…」
「なぁんだ!」
愬は翏の肩から手を離した。
「じゃあお前にやるよ。っつってもまぁ、どうせ行く家(とこ)は同じなんだけどな。んでもって良かったな、お嬢さん。金もない奴を世話しようなんて物好き、きっとこいつぐらいだぜ」
俺は笑って周りの男たちを見た。
「そういうことになった。こいつに――翏に何かすれば、俺を敵に回すと思え」
黄凱の後宮に、庚が足を踏み入れる。
いちばん奥の部屋で前皇妃・優佳は軟禁されていた。
彼女は凛とした佇まいでそこに座っている。
「出てお行きなさい、庚」
部屋の前に庚が到着したのを感じ取ると、優佳ははっきりとそう言った。
「ここをどこだと思っているんです」
言われ、庚は部屋の扉を開ける。
「貴女こそ、私を誰だと思っているんですか」
優佳は決して庚と目を合わせない。
「――――薄汚い、獣でしょう」
庚は一瞬顔をしかめた。
「獣、ですか。この、私が」
「それ以外に例えがあるのならお聞かせ願いますか。何かを成し遂げようとするときに力に物を言わせて行おうとする行為。実に獣らしい行いだと、そうは思いませんか? 前皇弟・庚殿」
「今は皇帝ですよ。そして貴女には、再び皇妃になってもらいます」
「そんなことをしてごらんなさい。私は潔くこの身を果てましょう。お前は灯央様から皇帝の位を奪った。国を、民を、そして最も信頼していた斎(とも)を奪いました。……なんとしてでも、私だけは奪われるわけにはいかないのです」
「本当に、それが貴女の本心ですか」
思わず優佳は庚を見た。
「それほど兄上を本当に愛しておられたのですか? ご冗談を」
「庚……!」
「兄上を少しも愛してなどいなかったくせに。ただ皇妃となりたかっただけでしょう?」
「違う!」
「違う? ああ、そうですね。少し違いますね。言い換えましょう。貴女は皇妃になって、ただ私に復讐したかった」
「庚……!!」
「裏切った私に復讐したかった。――そうだろう? 優佳」
「私は!」
「ひどい女(ひと)だ。貴女はずっとそうやって、兄上をだまし続けてきた。兄上はもう死んだのだよ。今更そんな風に兄上の最良の妻であることを演じても、私には白々しく見える」
優佳は何も言わずに俯いた。
「自分の娘を心配している様子もないなんて。翏が兄上の子どもだから?」
優佳は無言のまま動かない。
「10年前、綸が消えたと知って貴女はひどく取り乱した」
綸、お前は何も知らなかった。
お前は言った。
翏を殺せば母が狂うかもしれないから、私には翏を殺せないはずだ、と。
そんなことはない。
実際翏が消えても、この女は平然としている。
私だってまさか、こんなにも翏の存在が優佳にとって薄いものだったとは予想外だ。
浅ましい女なんだよ、お前たちの母親は。
けれどそれ以上に美しく、私を惹いて離さない。
「だって…綸は…っ」
優佳が呟くと、庚は彼女の耳元でそっと囁く。
「本心を聞かせて欲しい。私は10年も待ったんだ。翏(あのこ)も、もうここにはいない」
「私…は……!」
「貴女と兄上を縛るものは、もうない」
「私……!!」
「本心を。私はただ、それだけを望む」
優佳は涙目になりながら庚に抱きつき、およそ25年、言いたくて止まなかった言葉を口にした。
「愛しています、庚――」
ただ、ただ。
この世に生まれて愛した男(ひと)は、ただ1人。
庚という名の、傲慢な男。
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