還空論
HP「SECRET GAME」の付属ブログです。日記や小説。
ただしここでの小説には、あまり計画性がありません; HPの小説の番外編もあります。
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「さて、綸殿」
董狐が俺を振り返り、馬から降りた。
そして手を差し出し、俺も降りるよう促す。俺はそれに素直に従った。
「どうした?」
「綸殿。貴方はそろそろ、我々とは別に行動した方が良いでしょう。でないと後悔することになりますよ」
「……どういうことだ……?」
「庚殿に恨みがあるのは勿論、打倒したいというのであればそれを止めることはしません。しかしそれを、我々と共にしてはいけない、ということです。意味が分かりますか?」
「紅雪の目的は、黄凱を乗っ取ることなのか?」
董狐は微笑んだ。
「さすが、察しが宜しくて助かります」
「黄凱を救うなんて建前。あいつを……斎を目標にしているのも建前。この地を攻める口実があれば何でも良かった」
「そうです」
「……董狐。何故それを俺に?」
董狐は再度微笑んだ。
「顧客は大切にしませんとね。さぁ綸殿、お行きなさい。それを知ってどう行動するかは貴方の自由です。しかし貴方は慎重に考えなければなりません。慎重に考えるには、貴方が知っている情報は少なすぎます」
「……そうだな」
「ですがこれは覚えておいて下さい。庚殿を“愚王”だと称するのはこの国の人間だけですよ。私は彼ほど立派な君主を見たことがありません。実際周辺諸国の彼に対する評価は高いんですよ、ご存じでしたか? しかし貴方も含め、この国の人間は“洗脳”されてしまっています」
「洗脳……?」
俺は詩紀の話を思い出した。
父上がやって来たこと。
俺も、国民も、何も知らない。
しかし心の底から父上のことを信じていた。だから父上が殺されて、庚を恨むようになった。
庚の……叔父上の政策がどうというわけではない。ただ感情だけで、彼が皇帝であることを嫌った。
それは国民もそうだったのだろう。
「洗脳……そうかもしれない」
父上にだって表で見せている部分とは違うものがあった。
だったら叔父上だってそうかもしれない。
母上が目的でクーデターを起こした?
……冷静になれ。俺の昔から知っている叔父上は、そんな浅はかなことをするような人ではなかったじゃないか。
俺は感情に支配されて、きちんと物事を見る目をなくしてしまっていたんだ。
どうしてクーデターを起こしたのか。
叔父上の表で見えない何かを、俺は知らなければならない。
「ありがとう、董狐。俺は叔父上と話をする」
何をしようとしているのか、何を考えているのか、それを教えてもらうために。
斎、お前は兄さんのすることに何の疑問もないのか。
『庚様。私は灯央様を素晴らしき皇帝だと思います』
本当にそう思うのか。
『ええ』
罪をでっちあげて人を殺す皇帝が、素晴らしいと言えるのか。
『殺された民は幸運でしたね』
――斎。
斎、お前はおかしいよ。
どうした、何があった?
『庚様……私は自分が恐ろしいのです……! 皆死ねばいいと思ってしまうんです……! いいえ、本当はそんなこと思っていないはずなのに、そう思って行動する自分がいるんですっ』
落ち着け、斎。
どういうことだ。
『私じゃないんです、私であって私じゃない人間がいるんです、私はその記憶があるのに、確かに何かをした記憶があるのに、それをした現実感がないんです』
斎……?
『まるで夢のようなんです。自分の行動を客観的に見る私がいるんです、でもそれは夢でも何でもなくて、確かに現実なんです……!』
「何が黄凱を救う、だ」
庚は呟いた。目の前にある紅雪軍をひたすら睨みつけている。
「斎のことなど、とうに忘れていたんだろう」
庚は紅雪で斎が何をしたのか聞いていた。城下町の罪人の罪を重いものに書き換え、重い刑罰――死刑を宣告していたのだ。
ひどいことだと庚も思う。国外追放など軽すぎるくらいだ。
更に斎の下で働いていた者たちが、罪人からお金を受け取り死刑を免除することを黙認した。
死刑を免除してもそれを記録としては取り行う必要があったので、代わりの人間に罪をなすりつけ死刑を行ったのだ。
斎が黙認したのはその所為だった。彼にとって誰が死ぬかなんてどうでも良かった。
死を与える人数が変わらないのであればどうでも良かった。
寧ろ罪をなすりつけられた者たちを幸運だと思っていた。
普段は心優しく、しっかりとした人間であるはずなのに、ふとした瞬間にこういった残酷な面を見せる。
庚が斎のその“病”を知ったのは、彼が黄凱の民となって10年程経ってからだった。
灯央は気がつかなかった。斎が自分の政策に同調することは当然と思っていた。
ただ庚だけが違和感を覚えた。
何故誰も兄のことを不自然に思わない。
傍にいる斎さえも――何故。
「斎を口実にするなど白々しい。初めからこの国の肥沃な土地が目的のくせに……斎も国も渡しはしない――」
どんな思いで10年前、私が兄を殺したのか知らないだろう。
どんな思いで私がこの国の皇帝として立っているのか知らないだろう。
まだまだこれから自分の足で歩むべき国なのだ。
易々と渡すものか。
「諸君に問う!」
庚は大声を出した。
「私は逃げ出す者を咎めはしない! 命を惜しんで何を恥じる! しかし戦うべき時もある! 諸君に問おう、今がその時ではあるまいか!」
歓声が上がった。
「死なない覚悟はあるか! 戦が終わるその時まで、自分の足で立ち続けるという強い意志が! そのために敵に挑む勇気が! この戦が終わった時、我々は“我々の国”を守ったという誇りを手に入れるだろう!」
剣を大きく振り上げて日に掲げる。
「だが忘れるな! それは生きている人間のものだ! 死者が得るものなど何もない! 今ここにいる全員で誇りを手に入れると誓い合おう!」
庚は剣の切っ先を紅雪軍に向けた。
「誓える者は私に続け!!」
董狐が俺を振り返り、馬から降りた。
そして手を差し出し、俺も降りるよう促す。俺はそれに素直に従った。
「どうした?」
「綸殿。貴方はそろそろ、我々とは別に行動した方が良いでしょう。でないと後悔することになりますよ」
「……どういうことだ……?」
「庚殿に恨みがあるのは勿論、打倒したいというのであればそれを止めることはしません。しかしそれを、我々と共にしてはいけない、ということです。意味が分かりますか?」
「紅雪の目的は、黄凱を乗っ取ることなのか?」
董狐は微笑んだ。
「さすが、察しが宜しくて助かります」
「黄凱を救うなんて建前。あいつを……斎を目標にしているのも建前。この地を攻める口実があれば何でも良かった」
「そうです」
「……董狐。何故それを俺に?」
董狐は再度微笑んだ。
「顧客は大切にしませんとね。さぁ綸殿、お行きなさい。それを知ってどう行動するかは貴方の自由です。しかし貴方は慎重に考えなければなりません。慎重に考えるには、貴方が知っている情報は少なすぎます」
「……そうだな」
「ですがこれは覚えておいて下さい。庚殿を“愚王”だと称するのはこの国の人間だけですよ。私は彼ほど立派な君主を見たことがありません。実際周辺諸国の彼に対する評価は高いんですよ、ご存じでしたか? しかし貴方も含め、この国の人間は“洗脳”されてしまっています」
「洗脳……?」
俺は詩紀の話を思い出した。
父上がやって来たこと。
俺も、国民も、何も知らない。
しかし心の底から父上のことを信じていた。だから父上が殺されて、庚を恨むようになった。
庚の……叔父上の政策がどうというわけではない。ただ感情だけで、彼が皇帝であることを嫌った。
それは国民もそうだったのだろう。
「洗脳……そうかもしれない」
父上にだって表で見せている部分とは違うものがあった。
だったら叔父上だってそうかもしれない。
母上が目的でクーデターを起こした?
……冷静になれ。俺の昔から知っている叔父上は、そんな浅はかなことをするような人ではなかったじゃないか。
俺は感情に支配されて、きちんと物事を見る目をなくしてしまっていたんだ。
どうしてクーデターを起こしたのか。
叔父上の表で見えない何かを、俺は知らなければならない。
「ありがとう、董狐。俺は叔父上と話をする」
何をしようとしているのか、何を考えているのか、それを教えてもらうために。
斎、お前は兄さんのすることに何の疑問もないのか。
『庚様。私は灯央様を素晴らしき皇帝だと思います』
本当にそう思うのか。
『ええ』
罪をでっちあげて人を殺す皇帝が、素晴らしいと言えるのか。
『殺された民は幸運でしたね』
――斎。
斎、お前はおかしいよ。
どうした、何があった?
『庚様……私は自分が恐ろしいのです……! 皆死ねばいいと思ってしまうんです……! いいえ、本当はそんなこと思っていないはずなのに、そう思って行動する自分がいるんですっ』
落ち着け、斎。
どういうことだ。
『私じゃないんです、私であって私じゃない人間がいるんです、私はその記憶があるのに、確かに何かをした記憶があるのに、それをした現実感がないんです』
斎……?
『まるで夢のようなんです。自分の行動を客観的に見る私がいるんです、でもそれは夢でも何でもなくて、確かに現実なんです……!』
「何が黄凱を救う、だ」
庚は呟いた。目の前にある紅雪軍をひたすら睨みつけている。
「斎のことなど、とうに忘れていたんだろう」
庚は紅雪で斎が何をしたのか聞いていた。城下町の罪人の罪を重いものに書き換え、重い刑罰――死刑を宣告していたのだ。
ひどいことだと庚も思う。国外追放など軽すぎるくらいだ。
更に斎の下で働いていた者たちが、罪人からお金を受け取り死刑を免除することを黙認した。
死刑を免除してもそれを記録としては取り行う必要があったので、代わりの人間に罪をなすりつけ死刑を行ったのだ。
斎が黙認したのはその所為だった。彼にとって誰が死ぬかなんてどうでも良かった。
死を与える人数が変わらないのであればどうでも良かった。
寧ろ罪をなすりつけられた者たちを幸運だと思っていた。
普段は心優しく、しっかりとした人間であるはずなのに、ふとした瞬間にこういった残酷な面を見せる。
庚が斎のその“病”を知ったのは、彼が黄凱の民となって10年程経ってからだった。
灯央は気がつかなかった。斎が自分の政策に同調することは当然と思っていた。
ただ庚だけが違和感を覚えた。
何故誰も兄のことを不自然に思わない。
傍にいる斎さえも――何故。
「斎を口実にするなど白々しい。初めからこの国の肥沃な土地が目的のくせに……斎も国も渡しはしない――」
どんな思いで10年前、私が兄を殺したのか知らないだろう。
どんな思いで私がこの国の皇帝として立っているのか知らないだろう。
まだまだこれから自分の足で歩むべき国なのだ。
易々と渡すものか。
「諸君に問う!」
庚は大声を出した。
「私は逃げ出す者を咎めはしない! 命を惜しんで何を恥じる! しかし戦うべき時もある! 諸君に問おう、今がその時ではあるまいか!」
歓声が上がった。
「死なない覚悟はあるか! 戦が終わるその時まで、自分の足で立ち続けるという強い意志が! そのために敵に挑む勇気が! この戦が終わった時、我々は“我々の国”を守ったという誇りを手に入れるだろう!」
剣を大きく振り上げて日に掲げる。
「だが忘れるな! それは生きている人間のものだ! 死者が得るものなど何もない! 今ここにいる全員で誇りを手に入れると誓い合おう!」
庚は剣の切っ先を紅雪軍に向けた。
「誓える者は私に続け!!」
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『ねぇ兄さん、紅雪からのお客さんにすっごく若い奴がいるって聞いてたけど、本当にいるよ』
『駄目じゃないか庚。“奴”なんて失礼だぞ』
貴方がたは……?
『俺たちは、皇帝の子どもだよ。俺は庚。こっちは兄で皇太子の灯央』
この国の皇族の方ですね。
失礼致しました、私は勉強のために今回の訪問団に同伴させていただいています、斎と申します。
『ふうん。斎ってさ』
『庚! 他国からのお客様だ、それ以上の無礼は私が許さない』
いいえ、いいんです。私も緊張しておりましたので、こういう風に話しかけられて安心致しました。
『そう? じゃあ遠慮なく。斎はすごいんだよな! まだ子どもなのに官僚の試験に通ったんだろ? 頭いいなぁ。すごいなぁ』
そんな……。
『紅雪の官僚はやめてうちに来いよ』
『また庚は、そんな軽々しく……』
『無理じゃないだろ? だって黄凱は官僚の試験、他国の生まれでも受けられるんだったよな』
『可能かどうかの問題じゃないだろ』
いいですね、楽しそうです。
『だろー? まぁそんなことは置いといて、あと半年もこの国にいるんだから、俺たちと一緒にいろいろ遊ぼうぜ。紅雪の話も聞かせてよ』
はい、喜んで。
どうぞよろしくお願いします。
官僚試験に通って初めての大きな仕事。
それが黄凱への訪問だった。
まだ13歳、官僚試験に通った最年少記録だと紅雪では騒がれた。
それから度々、私は訪問団に加わって黄凱を訪れていた。
『斎……? 斎だろ、どうした?』
ここは、どこ……?
『ふらふらじゃないか。誰か! 庚!』
『どうした兄さん、大声出して。――人が倒れてたのか?』
『お前も分かるだろう、誰なのか』
『…………斎? 何故斎が…!』
誰の声……?
ここは一体――。
25歳の頃か、紅雪から追放されたのは。
行く当てもなく放浪して、自然と、極東の国・黄凱に辿り着いていた。
たまたま郊外の視察に出ていた灯央様と庚様に発見され、私は宮殿へと招かれたのだ。
お二人とも温かく私を迎え入れてくれた。
「夢……?」
斎は目を覚ました。ひんやりとした空気を感じ取り、自分が牢の中にいることを思い出す。
あまりにも温かい夢だった。灯央と庚との思い出。
初めて出会ったのが13歳だったことを思い出し、そんなに昔のことだったのかと懐かしむ。
「今更そんなことを懐かしんだって……」
一体どうなるというのだろう。
今のこの状況が変わるわけでもない。
分かっているのは、自分はこの国に来ては駄目だったのだということ。
「大体何故私は官僚になどなろうと――」
斎は頭痛を感じた。
「官僚に……なろうと、したのは……」
『ああ、ようやく』
なろうと、したのは――。
『ようやく死ねるのね、私』
お母さん……。
『嬉しい……』
――人って死ぬと、嬉しいんだね。
『駄目じゃないか庚。“奴”なんて失礼だぞ』
貴方がたは……?
『俺たちは、皇帝の子どもだよ。俺は庚。こっちは兄で皇太子の灯央』
この国の皇族の方ですね。
失礼致しました、私は勉強のために今回の訪問団に同伴させていただいています、斎と申します。
『ふうん。斎ってさ』
『庚! 他国からのお客様だ、それ以上の無礼は私が許さない』
いいえ、いいんです。私も緊張しておりましたので、こういう風に話しかけられて安心致しました。
『そう? じゃあ遠慮なく。斎はすごいんだよな! まだ子どもなのに官僚の試験に通ったんだろ? 頭いいなぁ。すごいなぁ』
そんな……。
『紅雪の官僚はやめてうちに来いよ』
『また庚は、そんな軽々しく……』
『無理じゃないだろ? だって黄凱は官僚の試験、他国の生まれでも受けられるんだったよな』
『可能かどうかの問題じゃないだろ』
いいですね、楽しそうです。
『だろー? まぁそんなことは置いといて、あと半年もこの国にいるんだから、俺たちと一緒にいろいろ遊ぼうぜ。紅雪の話も聞かせてよ』
はい、喜んで。
どうぞよろしくお願いします。
官僚試験に通って初めての大きな仕事。
それが黄凱への訪問だった。
まだ13歳、官僚試験に通った最年少記録だと紅雪では騒がれた。
それから度々、私は訪問団に加わって黄凱を訪れていた。
『斎……? 斎だろ、どうした?』
ここは、どこ……?
『ふらふらじゃないか。誰か! 庚!』
『どうした兄さん、大声出して。――人が倒れてたのか?』
『お前も分かるだろう、誰なのか』
『…………斎? 何故斎が…!』
誰の声……?
ここは一体――。
25歳の頃か、紅雪から追放されたのは。
行く当てもなく放浪して、自然と、極東の国・黄凱に辿り着いていた。
たまたま郊外の視察に出ていた灯央様と庚様に発見され、私は宮殿へと招かれたのだ。
お二人とも温かく私を迎え入れてくれた。
「夢……?」
斎は目を覚ました。ひんやりとした空気を感じ取り、自分が牢の中にいることを思い出す。
あまりにも温かい夢だった。灯央と庚との思い出。
初めて出会ったのが13歳だったことを思い出し、そんなに昔のことだったのかと懐かしむ。
「今更そんなことを懐かしんだって……」
一体どうなるというのだろう。
今のこの状況が変わるわけでもない。
分かっているのは、自分はこの国に来ては駄目だったのだということ。
「大体何故私は官僚になどなろうと――」
斎は頭痛を感じた。
「官僚に……なろうと、したのは……」
『ああ、ようやく』
なろうと、したのは――。
『ようやく死ねるのね、私』
お母さん……。
『嬉しい……』
――人って死ぬと、嬉しいんだね。
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